「ある映画監督の生涯 溝口健二の記録」という記録映画をご覧になったことがあるでしょうか。
これはインタビュー・ドキュメントという作りになっています。
映画制作スタッフや俳優さんたちの証言をタップリと聴くことができるので、溝口健二ファンならば、必見のドキュメント。
この記録映画の監督をしているのが、新藤兼人監督です。
ある映画監督の生涯 溝口健二の記録
製作=近代映画協会 配給=ATG
1975.05.24
150分 カラー
製作 ................新藤兼人
製作担当 ................山本文夫
監督 ................新藤兼人
構成 ................新藤兼人
撮影 ................三宅義行
1946年(昭和21年)、松竹大船撮影所で、野田高梧とともに溝口健二監督作『女性の勝利』の脚本を書いた脚本家・映画監督の新藤兼人が、師と仰ぐ亡き映画監督・溝口健二の生涯を取材する。
溝口の関係者39人に新藤自らインタビューを行い、ゆかりの場所も訪ね、取材を纏め上げた。(中略)
1976年(昭和51年)、キネマ旬報賞でベスト・ワン、新藤兼人が監督賞を受賞、同年の毎日映画コンクールでも新藤が監督賞を受賞している(引用元:ウィキペディア)
このドキュメンタリー映画に作り方に、新藤兼人という映画監督の性質が如実にあらわれていると感じたのは私だけでしょうか。
正直、編集が平板なので、よほど溝口健二という監督に興味がないと、最後まで見られないのではないかと思われます。
NHKのドキュメントですと、もっとドラマチックに作り上げるはずです。
しかし、新藤兼人は、違う編集方法を採用した。
つまり、あえて劇的なる要素を、このドキュメントから排除したのでしょう。
このフラットな編集に、新藤兼人の粘り強さ、執拗さが鮮明に見て取れます。
やらせを排除したインタビュー形式により、できるかぎりリアルな溝口健二という人間を浮かび上がらせたかったのだと思います。
【この名作映画のツボ】
このある種の退屈さの中に、新藤兼人の映画作成術の本流があるのではないでしょうか。
感傷をできる限り排し、ねちっこく現実的な人間像を描き出す眼力こそ、この記録映画の捨てがたい魅力だと言えます。