1968年公開の映画「若者たち」が、現代に語りかけるもの…
映画「若者たち」をアマゾンプライムで初めて鑑賞した。
「若者たち」は1968年に公開された日本映画である。
1967年製作、1968年公開。俳優座、新星映画社(自主上映)製作。白黒、87分。
監督は森川時久(もりかわときひさ)
出演者は以下のとおり。
佐藤太郎:田中邦衛
佐藤次郎:橋本功(はしもと いさお)
佐藤オリエ:佐藤オリエ
佐藤三郎:山本圭
佐藤末吉:松山省二(まつやま せいじ)
河田泰子:栗原小巻
淑子:小川真由美
戸坂:石立鉄男
桜井:井川比佐志
小川隆音:大滝秀治
小川隆:江守徹 他
2022年に見ても、古さを感じない。新鮮な映画
新鮮だった。こういう映画の撮り方もあるのかという感じ。
演出も、俳優の演技も、まるで違う。
何と違うのか?
それは、黒澤とか小津とか溝口とか、そういう日本映画の巨匠たちの手法と、根本的に違うのだ。
1968年と言えば、高度経済成長期の日本だが、いかに日本が貧しかったか、それが生々しく伝わってくる映画だ。
あの頃の日本は良かったと言われる、1960年代だが、それがいかに現実とかけはなれている妄想に過ぎないことがよくわかる。
しかし、ひたむきで、力強く、懸命で、不器用で、愛らしい人間たちが、そこには息づいていた。
今の日本が失ってしまったものが、確かに脈打っているのである。
キーワードは「克己心」
主要な登場人物は、すべて自分自身と戦っている。自分に打ち勝とうとする精神を「克己心」と呼ぶが、長らく忘れていたこの「克己心」という言葉を思い出させてくれた。
主な登場人物は、全員が眼が異様に輝いている。暗い瞳の人物をいるが、目ぢからは半端ない。
今いる自分の地点から、何とか脱出して、視界の開ける場所で呼吸したいという激しい願望を抱いているから、眼がキラキラしているのだ。
そういう演技を俳優にさせた映画監督も、正直、すごいと思う。
2020年代を生きる我々のために作られたような映画だ
私は現在、私のオリジナル企画である「まどか(円和)」プロジェクトの取り組んでいる。
この「まどか」では、内なる世界(個人の生活、文化芸術、心の問題)と外なる世界(政治・経済・社会問題・自然環境)が、健やかにつながってこそ、人は幸福になれるのではないか、と問いかけているのである。
分断され、バラバラにされたものを、つなげ、つなげて、まるく円を描くように、人の幸せ、人の時代を創りたいと模索している。
で、この映画「若者たち」だが、この作品は、家族、兄妹、友情、貧困、学生運動、広島の被爆、働くこと、労働問題、恋愛、結婚などなど、様々なテーマが詰まっている。
詰まっているだけでなく、物の見事に人間ドラマとして結晶しているのだ。
「まどか」とはほど遠い、ぐっちゃぐちゃのカオスが描かれるが、そこには「人のつながり」が感じられて、のたうち、あえぎつづけても、その先には「まどか」なるものが見えてくるのではないか、という希望の兆しは感じ取れる。
この希望の兆しこそ、今の私が求めているものだのだ。
いや、2022年という厳しい時代に生きる、多くの人がこの「希望の兆し」を求めているのではないだろうか。
映画「若者はゆく -続若者たち-」で光る佐藤オリエと夏圭子
映画「若者たち」の続編である「若者はゆく」は、1969年に公開された。
出演者は以下のとおり。
佐藤太郎:田中邦衛
佐藤次郎:橋本功
佐藤オリエ:佐藤オリエ
佐藤三郎:山本圭
佐藤末吉:松山省二
間崎ミツ:木村夏江
間崎みき:大塚道子
辰夫:福田豊土
町子:夏圭子
戸坂:石立鉄男
武:中野誠也
塚本:塚本信夫 他
女優陣の熱演は特筆に値する。
「若者たち」シリーズの最大の魅力は、もちろん、以下の五人兄弟の人物造形である。
佐藤太郎:田中邦衛
佐藤次郎:橋本功
佐藤オリエ:佐藤オリエ
佐藤三郎:山本圭
佐藤末吉:松山省二
しかし、その一方で、女優陣の活躍も素晴らしい。
佐藤オリエは、もちろんのこと、夏圭子などの演技派女優の熱演は、しびれるほどの迫力がある。
モノクロームの美しい映像が眼に沁みる。
三部作の二作目。三作ともモノクロームの映像が美しい。写真のバラ板紙のような墨色が、眼に沁みる。
フィルム映像であり、しかも、墨色の発色にこだわったアートワークは素晴らしい。
1960年代後半という時代の暗さと熱気を、無駄な情報を排除した白黒映像が、ストイックに表出してくれている。
映画「若者の旗」での山口果林の演技は珠玉
「若者たち」三部作の三作目である「若者の旗」は、1970年に公開された。
出演者は以下のとおり。
佐藤太郎:田中邦衛
佐藤次郎:橋本功
佐藤三郎:山本圭
佐藤オリエ:佐藤オリエ
佐藤末吉:松山政路
戸坂:石立鉄男
町子:夏圭子
チエ:山口果林
映画「砂の器」の山口果林ではない、別人が「若者の旗」にはいた。
「若者たち」三部作で共通するのは、人間の強さと弱さを、強烈に描いていることだ。
平穏な日常はこの映画では、ほとんど描かれない。
特に、人間の弱さの描出は、激しく、生々しく、そして、人間愛にあふれている。
「若者の旗」だけに出演している山口果林は、弱さの象徴のような役を演じている。
この時の山口果林は、ハッとするほど美しかった。
スピーディな物語展開が、作品の重苦しさを軽減している。
「若者たち」「若者はゆく」「若者の旗」に共通するのは、目まぐるしい場面転換である。
次々に事件が起き、人と人とが感情をぶつかあう。
濃密なドラマ、湿気を大量に含んだ感情の吐出、それらはともすれば、重苦しい感じになりがちだ。
しかし、そうならないための技巧はほどこされている。とにかく、このドラマは速いのである。
感傷に浸ったり、どっぷりと落ち込んでいるヒマを、この映画は与えてくれない。
マシンガンのように繰り出される、ドラマの雨あられに、両足を踏ん張って耐えなければいけないのだ。