風花未来の今日の詩は「大判焼」です。

 

大判焼屋

 

35年も前のことだ

 

8ヶ月間をこえる入院生活で

わたしは疲れ切っていた

 

わずかな楽しみといえば

病棟をコッソリ抜け出し

近くの出店で

大判焼きを

買って食べることくらいだった

 

この大判焼は

地域によって呼び方が異なるらしい

 

今川焼

きんつば

御座候(ござそうろう)

回転焼

二重焼

太鼓焼

おやき

あじまん

 

近畿地方だけで 60種類以上

全国には 200種類をこえる

呼び名があるという

 

わたしの生まれ故郷では

大判焼と呼んでいた

 

で わたしの想い出だが

小豆餡(あずきあん)の甘みが

忘れられない

その出店では

アンコの他に

カスタードクリームが

あるだけだったが

わたしは ひたすら

小豆餡だけを

ほおばり続けた

 

実は わたし

かなり真剣に

「大判焼屋」になろうと

これまでに

何度も考えてきた

 

だが いつも

資金がなくて

断念してきた

 

そして 今

小豆餅だけしか売らない

「大判焼屋」になりたいと

狂おしいほどに 願っている

 

だが 今のわたしは

これまでの人生で

もっとも貧乏なのだ

 

大判焼を買うのにも

ちゅうちょする

重度の金欠なのに

「大判焼屋」なりたいとは

どうしたことか

 

でも 今までで

いちばん真剣に考えている

 

それだけは 確かだ

 

「大判焼屋」になりたい!