増村保造監督の映画「清作の妻」を鑑賞するのは2度目です。
「清作の妻」は、1965年6月25日に公開された日本映画。監督は増村保造。脚色は新藤兼人。主演は若尾文子と田村高廣。
これまで増村保造監督の最高傑作は「赤い天使」か「黒の試走車」だと勝手に思っていました。
しかし、今回「清作の妻」を見直してみて、この映画こそ、増村保造の真骨頂があらわれていて、彼の最高傑作と呼ぶにふさわしいと強く感じ入った次第です。
気安く「命がけ」という言葉は使いたくないのですが、若尾文子の演技は、まさに「命がけ」という迫力が伝わってきました。
「迫真の」「鬼気迫る」「全身全霊の」など、力いっぱいの演技を讃える形容はいろいろあります。けれども、この映画における若尾文子の演技は「命がけ」という言葉しか浮かびませんでした。
鬼神、あるいは阿修羅と化して立つ、縄でくくられた若尾文子の姿は、とてつもなく、激しく、惨たらしく、狂おしく、常軌を逸しているけれども、なぜか美しい。
極限状況という泥沼に咲いた花のように、怪しく咲いているかに見えたのです。
あの名作「妻は告白する」のラスト以上の「美しい狂気」が、見事に描出されていました。
物語の設定は極めてシンプルです。しかし、若尾文子が演じる「清作の妻」の予測不能な行動により、物語は意外な展開を見せ、静かなラストへの収束してゆきます。