今日の風花未来の詩は「魔法」です。
魔法
近くの歯科医院へ
歯のクリーニングをしてもらいに行った
予期せぬことは
そこで起こった
衛生士さんが
ひととおり歯の清掃が終わった時
「マッサージをしますね」と言って
両耳の下あたりをおさえた
私は「う~ん」と声もらした
「ここ 痛いですか」
「嚙みしめが強くて 筋肉が緊張してるんです」
「それで 奥歯がすり減っているし」
「こうすると どうですか」
今度は口の奥に指を入れ
ていねいに 優しく
少しずつ 少しずつ
もみほぐしてゆく
「これで 少し楽になりましたかね」
私は「う~ん」と
再び声をもらした
まさか
歯科医院でマッサージを受けるとは
思いもよらなかった
顎の付け根の筋肉よりも
心が 私の心が
魔法にかかったように
ときほぐされてゆくのが
たしかに感じとれた
「これからは 歯と歯は
触れない状態でキープしてくださいね」
余命3ヶ月の宣告を受けて
すでに1ヶ月半が過ぎているけど
その間 抗がん剤に負けてなるものかと
歯を食いしばっている自分がいることに
今まで気づかなかった
「では また3ヶ月後に
必ずお待ちしてますからね」
歯科医院を出て
真冬の空を見上げた
3ヶ月先ことは
うまくは 想い描けなかったけれど
心が軽くなっていて
曇り空も明るく見えた
誰かのひとつの思いが
誰かのひとつの行いが
人をかぎりなく元気づける
そのことが
とてつもなく
うれしかった