今日の風花未来の詩は「甘い静けさ」です。

 

甘い静けさ

 

心が乱れている

あれほど

覚悟を決めたはずなのに

なぜか

胸騒ぎがおさまらない

 

今日は化学療法のある日だけれど

抗がん剤投与について

主治医に相談しようと思っている

 

死ぬとか

生きるとかいうことと比べたら

治療法などは

単なる技術論でしょう

などと

他人事のように

あっけらかんとは

今の私には言えない

 

そんなことを

いろいろと思い悩んでいると

気持が沈み込んできて

体を動かすのも

ままならないほどになっている

 

そんな呪縛を

といてくれたのは

ひとつの林檎だった

 

正確に言うと

四分の一の林檎

 

林檎を食べるのは

私の欠かせない日課になっている

 

林檎も物価高騰で

かなり高価な食べ物になってしまった

だから

1日1回

四分の一ずつ

食べている

 

少し早すぎる朝食の最後を

林檎の時間とすることに

 

病院の予約時間が

じわじわと迫っている

だが

まだ出かける気になれない

 

目の前のお皿から

林檎の最後の一切れが

消え去った時

予告もなしに

プチっと

私の中で

何かが

はじけた

 

そして

胸の中の

ざわめきが嘘のように消え

不思議な

甘い静けさに

私は包まれた

 

さあ

そろそろ

あの場所に

でかけよう

 

四分の一の

優しさを抱きながら