言葉の力の凄さを感じる、そういう小説に出逢うことは稀です。外国の作品を翻訳で読む場合には、奇跡に近い体験だと言っていいでしょう。
しかし、読むたびに、物語る力に引き込まれ、激しいうねりに巻き込めまれてしまう海外小説はあるのです。
それが「スタンド・バイー・ミー」。
作者は、スティーヴン・キング。山田順子という人の翻訳も良いのです。
映画も有名で、名作の部類に入るでしょうね。でも、小説の方が、体ごと連れ去られるような力が感じられます。
小説「スタンド・バイ・ミー」の魅力は、「鮮明なイメージ」と「語り口の凄さ」があげられます。
鮮明な原風景の描出が読む者の心を、いっしゅんのうちに浄化してしまう。
「スタンド・バイ・ミー」が映画に向いているのは、長く記憶に残る鮮烈な映像世界が描き出されているからです。中年の作家が少年時代を回想するという設定の小説ですが、心の原風景とでも呼ぶべき映像の美しさは、読みながら心の中にイメージする読者を、いっしゅんのうちに幼年期に戻してしまう摩訶不思議な力を持っています。
そう、瞬間的に少年に帰ってしまう、その嬉しいような切ないような感覚を、ステーヴィン・キングは、この小説で、何度も味あわせてくれます。
渦を巻きながら進む語り口には、誘拐されるような暴力的なまでの強さがある。
ちょっと日本人にはマネできないと思われる、エネルギーの横溢、粘りづよいストーリー・テリングが、キングの魅力です。「スタンド・バイー・ミー」は、ホラー小説ではないのですが、恐怖がなくても、語りの渦に人を巻き込んでしまう語り術を、キングは持っていることを確認できます。
ただの波ではなく、うねり、渦を巻いてくるような語り口、それを味わうだけでも、素晴らしい読書体験だと思うのです。
幼少時代の感覚を取り戻したい人、鮮やかな映像美に酔いたい人は、ぜひ、この小説をお読みください⇒スタンド・バイ・ミー改版 [ スティーヴン・キング ]