今回取り上げる小説は、アイラ・レヴィンの「死の接吻」。1953年作。アイラ・レヴィンの他の作品では「ローズマリーの赤ちゃん」が有名。
死の接吻 (ハヤカワ・ミステリ文庫 20-1) 文庫 – 1976/1/1
以下、この「死の接吻」の優れた点をあげてみることにします。
1)完璧なプロット。この構成力、設計図の緻密さはハイレベル。まさか、度肝を抜く展開、それが読者に極上の快楽を与える。何よりもまずプロットの勝利の作品。
2)ハラハラさせる演出力。サスペンスの盛り上げ方、シーンの作り方の巧さ。
3)ストーリー展開の巧さ。常に読者の意表をつく、物語展開。
4)人物造形、心理描写の精細さ。
5)動機は、貧乏ゆえに金持ちになりたい強い願望。兵役後の異常心理が、主人公を殺人鬼に変えてしまった。
6)会話の巧みさ。読者をハラハラさせる。嘘をつかせる。人物の心理の揺れを表現。駆け引きの妙。
7)物語に厚みを加える人物設定。母親と息子。父親と娘の愛情がえがかれていて、作品に厚みを加えている。
8)殺人の場所の設定、シーンの作り方は絶妙。
9)書き出しの巧さ。もう事件は始まりかけている。ある異常な情況を提示。事件が起きる予感を読者に与える。
10)謎が効果的。第二部まで「彼」が誰なのか実名を出さないことが効果的。犯人が誰なのかわからない。余計にハラハラ度を高める。犯人は意外な人物だった。
11)ラストシーンの美学。これが、この作品を高めている。犯人の母親の憐れさ。
12)印象深いシーンの創造。犯人が失禁した時、自分が殺した同じ状態の日本兵を思い出したことで、作品を深いものにしている。
13)常にA⇒A’⇒Bの構造で語られている。いっぺんには語らない。読者をじらす、間を入れる、緊張感を高めつつ語る。
いかがでしょうか。優れたと感じたことは13点もありました。こういう小説はなかなかありません。凄い作品ですね。
では、次に足りないと感じたところ(残念な点)をあげてみましょう。
1)文章表現の豊かさが足りない。同じサスペンス作家でも、アイリッシュの方が抒情的で美意識も高い。スティーヴン・キングはもっと、奥行きと幅のある語り方をする。たっぷりと豊かに語るのである。
2)題材とテーマが、斬新さとインパクトに欠けている。
ちなみに「死の接吻」は、これまで1956年と1991年に映画化されています。今後も、映画化されそうな予感がする小説ですね。