モノクロの映像が何ともいえない味を出していて、美しい。

 

今日取り上げる邦画は、市川崑監督の「黒い十人の女」です。

 

「黒い十人の女」1961年・大映。監督:市川昆。出演:岸恵子山本富士子船越英二ほか。

 

制作された時代を考えると、そのモダンなテイストに驚かされる。

 

モダンと感じられる要素として最も強烈に感じられるのは、作者の突き放した視線である。

 

鮮やかで冷めた映像感覚。乾いていてヒネリの効いた演出は、日本の監督としては稀有なものではないだろうか。

 

男と女を、時代や社会というものを、なかなかここまで距離をおいて見られるものではない。

 

この映画の撮影方法、光と影の使い方は、誰の影響なのかも私は知らない。詳しい方なら、〇〇という監督の、〇〇という手法のパクリだよと教えてくれるかもしれない。

とにかく不思議な映像である。私が美しいと感じる映像の範疇に、この作品は入っていない。

 

黒と白の深みのある画像を構築しながらも、そこに痛さ、気持ちを刺すもの、一種の切実なものが感じられない。

 

過度な緊張感、張詰めた感じ、心の闇といったものが、映像から伝わってこないのだ。

 

この独特の「ゆるみ」は監督の美意識によるものなのだろうか。それとも、「ゆとり」というものなのだろうか。ユーモアというものとも少し違う。

 

解説に「オフビートな映像感覚」と書かれていたが、調子はずれのまま物語を淡々飄々と進行させる、このストーリーテリングの手法は、他の日本映画には見当たらないと思う。

 

これほど多様な女性像を、クールに描いた映画も珍しい。女のしたたかさ、一筋縄ではゆかないしぶとさが輪郭も鮮やかに映されていて心地よい。

 

感情に埋没することなく感情を描き出す視線はドライでクール。日本人の湿気を抑えたクリアーな映像はすがすがしささえ覚えさせる。

 

50年代は日本映画が数多くの収穫を得た時代だった。その後に、先人たちとは全く違った、しかも完成度の高い魅力的な作品を制作することの難しさを想像することは、無駄ではないだろう。

 

市川監督の実験映画なのだろうか。映画として成功しているかはともかく、ユニークな日本映画の誕生と呼んでいいだろう。