金子みすゞの「紋付き」というをご紹介します。

 

紋付き

 

しずかな、秋のくれがたが

きれいな紋つき、着てました。

 

白い御紋は、お月さま

藍をぼかした、水いろの

裾の模様は、紺の山

海はきらきら、銀砂子。

 

紺のお山にちらちらと

散った灯りは、刺繍でしょう。

 

どこへお嫁にいくのやら

しずかな秋のくれがたが

きれいな紋つき着てました。

 

これは「風景詩」ですね。詩にこういうジャンルがあったでしょうか?

 

金子みすゞが得意とする「擬人法」と「比喩」を駆使して、眼前の風景を生き生きと描き出し、しかも「どこへお嫁にいくのやら」という自分自身の未来予想図をも重ね合わせています。

 

「100分de名著 金子みすゞ詩集」の著者である松本侑子よれば、この詩「紋付き」で描出されているのは「関門海峡に面した下関の夕景」だとのこと。

 

私は下関には行ったことがないので、現実の風景と金子みすゞの風景詩とを比較することはできませんが、想像するだけでも充分です。

 

いいなぁ~、みすゞの風景詩って!

 

と思わず口に出して言いそうになってしまいました。

 

どうして「いいなぁ~」と私が感じたのか?

 

それは、ここには金子みすゞの他の詩に滲み出ている「哀しみ」がないから。

 

「哀しみ」がないので、白・藍・水色・紺・銀といった色彩、そして「紺のお山にちらちらと 散った灯りは、刺繍でしょう」という美しい比喩に、楽な気持ちで酔えるのです。

 

この「紋付き」は、詩としての完成度が高く、みすゞのセンスの良さが光る秀作ですね。