金子みすゞの「もういいの」という詩をご紹介します。
もういいの
――もういいの。
――まあだだよ。
枇杷の木の下と、
牡丹のかげで、
かくれんぼの子供。
――もういいの。
――まあだだよ。
枇杷の木の枝と、
あおい実のなかで、
小鳥と、枇杷と。
――もういいの。
――まあだだよ。
青い空のそとと、
黒い土のなかで、
夏と、春と。
「かくれんぼ」という子供の遊びは、日本中広く行われていたと思いますが、「もういいの」と言う地域があるのですね?
私の故郷の「かくれんぼ」では、鬼が「もういいかい」と問いかけ、それに鬼でない子供たちが「まあだだよ」と答えるのです。
でも、金子みすゞが生まれ育った地域では「もういいかい」ではなく「もういいの」(これは「もういいの?」と語尾を上げた方がいいんでしょうね)と言われていたのだと思いますね。
最初、私は「もういいの」に違和感を覚えたのですが、何度か「もういいの?」とイントネーションを上げて言ってみると、こちらの方が可愛らしいと感じるようになりました。
詩のタイトルも、最初はなぜ「かくれんぼ」にしなかったのかと思ったのですが、「もういいの」の方が、生き生きした感じがして、子供の鼓動が伝わってくるようで、ずっと魅力的です。
この詩「もういいの」は、形式的にも整っていて、安心して読めます。
詩の形式的な安定感は、読者に安心感を与えると、再認識しました。
三組の「かくれんぼ」を、金子みすゞの得意な「擬人法」と「視点移動」を駆使して、「かくれんぼ」という遊びを、魔法使いのように「ときめき」と「かがやき」に変えてくれています。
この「かくれんぼ」では、みすゞ節の基調である「かなしみ」は封印され、無邪気な明るさがほとばしっているので、愛さずにはおれません。