間違いやすい日本語として注意が必要な言葉に「押しも押されぬ」と「押しも押されもせぬ」があります。

 

「押しも押されぬ」と「押しも押されもせぬ」は、ともに「実力があって堂々としている様子、どこへ出ても圧倒されることがない様子」という意味で使われているのですが、正しいのは「押しも押されもせぬ」の方です。

 

「押しも押されぬ」は一般的に使われており、辞書にも載っていますが、本来の使い方ではありません。Weblio辞書は「押しも押されぬ」を「誤記」としています。

 

間違えやすい証拠となるデータがありますので、ご紹介しましょう。

 

文化庁の平成15年度の「国語に関する世論調査」では「押しも押されもせぬ」を使う人が36.9%に対して、間違った言い方である「押しも押されぬ」を使う人が20代~30代を中心に51.4%もいました。

 

同じく平成24年度「国語に関する世論調査」では、本来の言い方とされる「押しも押されもせぬ」を使う人が41.5%、本来の言い方ではない「押しも押されぬ」を使う人が48.3%という結果が出ています。

 

本来の言い方ではない「押しも押されぬ」を使う人の方が多いのです。

 

「押しも押されもせぬ」の「押しも」は対句として使用されているだけで、意味はありません。「押されもせぬ」という言葉は単独で「確固とした地位をしめていること」を示しています。

 

では、どうして「押しも押されもせぬ」を「押しも押されぬ」と間違えて使ってしまうのか?

 

理由は2つ考えられます。

 

1つ目の理由は、「押しも押されもせぬ」がやや長くて言いにくいため、言いやすい「押しも押されぬ」を使う人が多い。

 

2つの理由は、「押すに押されぬ」との混同からくる間違いです。

 

「押すに押されぬ」は「押そうとして押すことができない」という意味から「厳として存在する、びくともしない」という意味に使われます。つまり「押しも押されもせぬ」とほぼ同じ意味だといっていいのです。

 

そのため、つい「押しも押されぬ」と誤用してしまいがちなのでしょう。

 

おさらいしますと、「押しも押されもせぬ」と「押すに押されぬ」が正しい日本語で、「押しも押されぬ」は誤用なのです。