映画「麒麟の翼」の感想

2012年に公開された映画「麒麟の翼」をDVDで鑑賞しました。

 

当サイト「美しい言葉.com」としては、珍しく最近の映画を取り上げます。

 

良質なエンターテインメントです。東野圭吾の同名の原作を読んでいないので、謎の答えがわからず、余計に没入できました。

 

麒麟の翼

 

特に、主人公である加賀恭一郎を演じた、阿部寛の存在感が際立っていました。60歳以下の役者で、味のある演技を楽しませてくれるのは、渡辺謙と阿部寛ぐらいしかいないと感じるのは私だけでしょうか。

映画自体、細部まで、手抜きなしに作り込まれているので、緊張感を最後まで保つことができました。

東野圭吾の小説は、映像化されると面白いですね。小説の文章は淡泊なのですが、アイデアとかプロットは面白いので、それなりの配役と演出ができれば、映像作品として充分に楽しめます。

馬込川堤防沿いを歩いて中田島砂丘まで

世界一周の壮大な旅はあきらめ、超近場から攻めることにしました。

コースはいたってシンプルです。自宅から馬込川まで徒歩15分。馬込川堤防を河口に向かって歩いてゆくだけ。

日本三大砂丘のひとつに数えられる「中田島砂丘」に出られればとイメージしたのですが、果たして、河口まで道は続いているのでしょうか。

河口に近づくにつれて、人影は減り、白鷺、鵜などに水鳥の姿が鮮やかに見えてきました。

緑濃い陰影深き水景が、自宅から1時間ほど歩いたところに広がっているとは、意外でした。

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馬込川は子供の頃、よく遊んだ川です。当時は、工場排水が大量に流されていて、とても見られてものではありませんでした。今は、清流とは言えないまでも、かなりキレイになりましたね。

堤防沿いを歩いてゆくと、幼い日のころが、とりとめもなく思い浮かぶ。当時は大きく感じられたものが、それほどでもないことに気づくのは、少し寂しい。出身の小中学校の校庭を見ると、当時は広大に見えたのに、猫の額ほどの面積しかないことに失望さえ覚えてしまいます。

しかし、目の前に広がる風景は、大きく、これまで閉ざされていたものが解き放たれてゆくのを覚えました。

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川風を浴びながら歩くこと、およそ3時間。河口に近づくほどに川幅は広くなり、空も大きくなってくる。

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途中、バイパスにさえぎられること2回。河口への旅は、安楽ではありませんでした。砂丘に出る道を、何度も間違え、中田島砂丘の入り口に着いたのは、出発から4時間後のことでした。

ふるさとの海との約20年ぶりの再会です。

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20年前から、100メートルほど狭くなったといわれる砂丘でしたが、今の私の体力からは、ちょうどよかったです。

水平線が、なぜか盛り上がって見えるました。風の音、波の音、鳥のさえずり……聞こえてくる音すべてを、体が歓んで受け止め、自らを浄化しようと泡立ち始めている……。

ふるさと浜松の水景の旅。夢幻のような時の流れでした。今日出逢ったものは、現実そのものではなく、心象風景なのでしょう。

周防正行「終の信託」の感想

周防正行監督の映画は、独自の映画センスがあって、そのセンスの良さをこれまで味わってきました。

 

周防監督の映画作品は、以下のとおりです。

 

変態家族 兄貴の嫁さん(1984年)

マルサの女をマルサする(1987年)

マルサの女Ⅱをマルサする(1988年)

ファンシイダンス(1989年)

シコふんじゃった。(1991年)

Shall we ダンス?(1996年)

それでもボクはやってない(2007年)

ダンシング・チャップリン(2011年)

終の信託(2012年)

 

今回、DVDで鑑賞した「終の信託(ついのしんたく)」の感想を書こうと思ったのですが、たぶん、まともなレビューにはならないと感じています。

 

映画「終の信託」はこちらで視聴可能です

 

いつもそうなのですが、非常に偏った、勝手な観方をしたしまったので、しっかりとした映画批評とは、とてつもなく、かけ離れたものになってしまうと、最初から、確信してしまったのです。

 

「安楽死」とか「尊厳死」の問題を、正面から見据えた映画作品、という視点からですと、それほど力は強くありませんし、魅力も薄いでしょう。

 

もちろん、水準以上ではあるのですが、「尊厳死」を主テーマとして作るのならば、もっと違った描き方があったと思います。

 

「安楽死」をテーマにした物語を望むならば、原作となった小説を読むべきかもしれません。私は未読ですが、こちらに⇒終の信託 [ 朔立木 ]

 

これは私見ですが、「終の信託」は、患者を苦しまないように早めに死なせてしまった女医の物語というスタイル(器)を借りた、周防正行の人間抒情詩だと思います。

 

映画というよりも、詩です。映像詩という言葉は使いたくありません。言葉が生きているから。

 

生きている言葉、そのほとんどを、患者役を演じた役所広司が、語っています。

 

もっとも美しいシーン、美しい言葉が紡ぎだされるシーンは、女医役の草刈民代と役所広司が堤防から川を眺めるシーン。

 

まるで、自分の体が、空に舞い上がってゆくみたいで……水面と空とが解け合う国にゆきたい……というふうなことを語る時の役所広司の演技は素晴らしい。そして、語られる言葉は、明るい光を帯びていました。

 

レンタル店に返す前に、このシーンを繰り返し観てみたいと思います。

 

仮面を想わせる草刈民代の表情も、この映画の器の一つだと想えば苦になりません。

 

この映画は人間抒情詩だと感じたこと。そのことで、この映画は、安楽死がメインテーマではなく、実は「生きていること」が主題なのだと思えてきました。

 

昇天を夢見ながら、生きている人間の姿。その描き方の独自性に、この映画「終の信託」の価値はあるのではないでしょうか。

 

最近、というか、この映画を観る前に、主人公の患者と同じようなことを想っていたのです。水平線と空とが溶け合う、安らかな国へ旅立ちたいと。昇天……それは、私の悲願でもあるのですが……。