世界一周の壮大な旅はあきらめ、超近場から攻めることにしました。
コースはいたってシンプルです。自宅から馬込川まで徒歩15分。馬込川堤防を河口に向かって歩いてゆくだけ。
日本三大砂丘のひとつに数えられる「中田島砂丘」に出られればとイメージしたのですが、果たして、河口まで道は続いているのでしょうか。
河口に近づくにつれて、人影は減り、白鷺、鵜などに水鳥の姿が鮮やかに見えてきました。
緑濃い陰影深き水景が、自宅から1時間ほど歩いたところに広がっているとは、意外でした。
馬込川は子供の頃、よく遊んだ川です。当時は、工場排水が大量に流されていて、とても見られてものではありませんでした。今は、清流とは言えないまでも、かなりキレイになりましたね。
堤防沿いを歩いてゆくと、幼い日のころが、とりとめもなく思い浮かぶ。当時は大きく感じられたものが、それほどでもないことに気づくのは、少し寂しい。出身の小中学校の校庭を見ると、当時は広大に見えたのに、猫の額ほどの面積しかないことに失望さえ覚えてしまいます。
しかし、目の前に広がる風景は、大きく、これまで閉ざされていたものが解き放たれてゆくのを覚えました。
川風を浴びながら歩くこと、およそ3時間。河口に近づくほどに川幅は広くなり、空も大きくなってくる。
途中、バイパスにさえぎられること2回。河口への旅は、安楽ではありませんでした。砂丘に出る道を、何度も間違え、中田島砂丘の入り口に着いたのは、出発から4時間後のことでした。
ふるさとの海との約20年ぶりの再会です。
20年前から、100メートルほど狭くなったといわれる砂丘でしたが、今の私の体力からは、ちょうどよかったです。
水平線が、なぜか盛り上がって見えるました。風の音、波の音、鳥のさえずり……聞こえてくる音すべてを、体が歓んで受け止め、自らを浄化しようと泡立ち始めている……。
ふるさと浜松の水景の旅。夢幻のような時の流れでした。今日出逢ったものは、現実そのものではなく、心象風景なのでしょう。