田中けんじ監督「運命じゃない人」の感想

鍵泥棒のメソッド」に続いて、田中けんじ監督の映画を取り上げます。今回は「運命じゃない人」です。

 

この監督は「構成オタク」なのではないかと思うほど、限界まで構成(プロット)が練られています。「鍵泥棒のメソッド」は、役者の強烈なオーラが魅力の一つなのですが、この「運命じゃない人」にはそれは薄いと言わざるをえません。

 

それでも、視聴者に文句なく「おもしろい!」と言わせてしまうのは、多視点の採用と先を読ませない展開があるからです。

 

各章を違う人物の視点から描いてゆく手法を活かした映画の最高峰は、黒澤明の「羅生門」でしょう。この「運命じゃない人」が「羅生門」と異なるのは、喜劇であること、テーマ性よりもゲーム性が強いことです。

 

構成が生み出す快感の切れ味は「運命じゃない人」の方が上かもしれません。

 

一方で、映画としてのテーマが弱いのではないか、という声が聞こえてきそうです。

 

強烈なテーマはないのですが、かといって、ゲーム性だけの映画ではありません。

 

田中けんじ監督の映画には「人って、やっぱり、愛しいね」という思いが共通して込められています。ただ、それが湿り気をおさえた喜劇という形式を採用しているために、前面に出てこないだけです。

 

それにしても、この水準まで構成を仕上げる才能は、なかなかのものですね。最近の日本映画にうんざりしている人たちも、田中けんじ監督の出現により、「邦画を諦めてはいけない」と感じるのではないでしょうか。

日本の現代語は「日本国憲法」を抜きにしては語れない。

2回連続で、太平洋戦争大東亜戦争)で没した人の詩をご紹介しました。

 

竹内浩三の詩「骨のうたう」オリジナル版

 

で、今日、8月15日は、終戦記念日終戦の日)です。この日は天皇の玉音放送があった日ですが、実際の終戦は、日本政府が、ポツダム宣言の履行等を定めた降伏文書(休戦協定)に調印した、9月2日とする説もあります。

 

「憲法改正」が現実味を帯びてきましたが、ここで大切だと思うのは、日本人として「戦争」と「平和」という言葉の意味を正しく知ることです。そうしないと、国民投票になった時に、適切に対処できませんから。

 

また、そのためには、日本の現代史を学び直すことも、絶対に必要です。

 

まずは、現在の「日本国憲法」を読むこと、そして、太平洋戦争を中心として現代史を勉強することから、始めてみませんか。

 

日本国憲法はこちらが読みやすいです⇒日本国憲法 (小学館アーカイヴス)

 

読み物としても、かなり興味深いのです。文字が大きく、下段にはわかりやすい注釈もついているので、入門書として最適でしょう。

 

当ブログ「美しい言葉」のテーマは日本語であり、言葉ですが、実は、日本の現代語は「日本国憲法」を抜きにしては語れないと、最近になって痛感しているのです。

 

言葉は人間存在の意味を除外していは考えられないし、人間の存在意義は、言葉以外のものでは確認できません。

 

先日再放送された「NHKスペシャル『日本国憲法誕生秘話』」は、その意味で、非常に勉強になりました。それについては、機会を改めて、書きたいと思っています。

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竹内浩三の詩「骨のうたう」オリジナル版

太平洋戦争で戦死した人の詩として、どうしても語り継いでゆきたいのが、竹内浩三さんの「骨のうたう」です。

 

こういう詩は理屈は不要なので、さっそくご紹介しましょう。

 

 

骨のうたう

 

戦死やあはれ
兵隊の死ぬるやあはれ
とほい他国で ひょんと死ぬるや
だまって だれもいないところで
ひょんと死ぬるや
ふるさとの風や
こいびとの眼や
ひょんと消ゆるや
国のため
大君のため
死んでしまうや
その心や

苔いぢらしや あはれや兵隊の死ぬるや
こらへきれないさびしさや
なかず 咆えず ひたすら 銃を持つ
白い箱にて 故国をながめる
音もなく なにもない 骨
帰っては きましたけれど
故国の人のよそよそしさや
自分の事務や女のみだしなみが大切で
骨を愛する人もなし
骨は骨として 勲章をもらひ
高く崇められ ほまれは高し
なれど 骨は骨 骨はききたかった
絶大な愛情のひびきをききたかった
それはなかった
がらがらどんどん事務と常識が流れていた
骨は骨として崇められた
骨は チンチン音を立てて粉になった

ああ 戦死やあはれ
故国の風は 骨を吹きとばした
故国は発展にいそがしかった
女は 化粧にいそがしかった
なんにもないところで
骨は なんにもなしになった

 

一般に知られている「骨のうたう」は、親友たちが補作したものだそうです。今回引用した詩は自ら「伊勢文学」という同人誌に発表したもので、これがオリジナル版だとのこと。

 

特記すべきは、上のオリジナル版は、竹内浩三が入隊前に書いているということ。つまり、戦後という未来を予見し、それを詩にしたのです。

 

2008年、NHKで放送された「ハイビジョン特集 シリーズ青春が終わった日 日本が見えない~戦時下の詩と夢・竹内浩三~」で、竹内浩三という名を初めて知ったという人も多いかもしれませんね。

 

お盆休み中に、戦没者の詩を読むのも良いかと思います。

 

こちらは、竹内浩三の入門書と言えるでしょう⇒戦死やあわれ (岩波現代文庫)

この詩をご存知ですか⇒日本語で書かれた美しい詩ベスト1

 

太平洋戦争(1941年12月8日から大日本帝国政府が降伏文書に調印した1945年9月2日まで)については、今後、繰り返し記事をアップしてゆく予定です。

 

憲法改正によって軍国主義が復活するという極端な話をしたいのではありません。ただ、これからをより豊かに暮らすにはどうしたら良いのかについて考える時、1945年に終結した戦争のことを振り返ることは有益だと思うのです。

 

戦後68年が過ぎ、今後も便利さの追求や経済発展だけを目指していたのでは、決して幸福な生活は得られないのではないでしょうか。

 

アジアでは近代化が早かった日本。しかし、それは早いだけのことであって、いずれは追いつかれる運命にあったのです。

 

近代化の途上で、日本人が生み出した文化には目をみはるものがあります。多くの人たちが、忘れ去ろうとしている、宝の一つが「詩」です。

 

この「美しい言葉」では、これからも、心の糧となってくれる、詩をご紹介してゆきますので、どうぞ、ご期待ください。

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