映画「霧の波止場」という映画をご存じでしょうか。1938年に制作されたフランス映画です。
ジャン・ギャバンが主演。その恋人役はミシェル・モルガン。
ジャン・ギャバンは言わずと知れたフランス映画界の巨星です。一方のミシェル・モルガンは、あの超美形女優のイングリッド・バーグマンをさらに神秘的にしたと言いたいほどの絶世の美女。
というわけで、ジャン・ギャバンとミシェル・モルガンの恋愛物語だけでも充分に楽しめます。
しかし、この映画にはもう一つ、特別な魅力があるのです。
昔のフランス映画は、沈鬱な雰囲気の作品が多いのですが、この「霧の波止場」も実に暗い映画です。
物語の舞台は霧深い波止場町。そこに生まれる、ニヒルな脱走兵(ジャン・ギャバン)と不幸な境遇の女(ミシェル・モルガン)との恋。
二人はともに他人には打ち明けにくい秘密を持っていて、その秘密を二人が告白した直後に、不幸な結末が待っています。
さて、先ほど申し上げた「もう一つの魅力」ですが、それは「一匹の犬」です。
この野良犬は映画の最初から最後まで、ジャン・ギャバンの後を追いかけ、すっかりなついてしまうのです。
ジャン・ギャバンが演じる脱走兵はまったく不愛想な男なのですが、犬に好かれてしまうという演出が実に巧みです。
こうした演出は、よほどの監督でないと、わざとらしくなってしまうもの。しかし、「霧の波止場」の監督は、さりげなく犬をつかって、ジャン・ギャバンの人間像を浮き彫りにしてくれています。
もう一つの魅力というのは犬に象徴される、監督の手腕です。
で、その監督は、あの名作中の名作「天井桟敷の人々」で有名なマルセル・カルネ。
マルセル・カルネには、ヴェネツィア国際映画祭監督賞とルイ・デリュック賞を受賞した「霧の波止場」、世界映画史上に燦然と輝く傑作「天井桟敷の人々」の他にも、「北ホテル」「悪魔が夜来る」「嘆きのテレーズ」などの秀作があります。
この「霧の波止場」の台詞は、マルセル・カルネが書いたそうですが、セリフが実に効いています。今時の映画ではありえない、ヒネリと含蓄がセリフにあるのです。
もう一つ、プライベートな話で恐縮ですが、この映画、私の母親が大好きでした。
娯楽のない時代、洋画を見ることは本当に贅沢な娯楽だったそうです。
若い頃のジャン・ギャバンに、私の母親はしびれていたのですが、母親が見た映画の話を何回も聞かせられました。
いつか見てみたいと思っていたのですが、、母親が夢中に話していた映画のタイトルを忘れてしまっていたのです。
ところが、今回見た「霧の波止場」ラストに船の汽笛が映るシーンがあったので、母親が私に伝えたかったのは、この「霧の波止場」のことかもしれません。
ジャン・ギャバン主演の有名な映画に「望郷」にも汽笛のシーンがありますが、はてさて、どちらなのでしょうか。
母親はもう他界しているので、聞くすべはありません。
まあ、とにかく、母親はジャン・ギャバンに憧れていたことだけは確かです。
古い映画が好きな私ですが、1930年代の映画は、ほとんど見てきませんでした。この時代には名作映画が集中していそうなので、これからもアマゾンプライムで鑑賞したいと思っています。