矢口史靖監督の映画「ハッピーフライト」を見た感想

矢口史靖監督の映画「ウォーターボーイズ(2001年)」「スイングガールズ(2004年)」に感動したので、続けて矢口フィルムを見ている。

 

パルコ フィクション(2002年)

 

ハッピーフライト (2008年)

 

ロボジー (2012年)

 

脱力感を覚えざるをえないのですが、邦画の映画監督で期待できるのはほんの数人しかいないので、ここは粘り強く感想を書いてみたいと思います(汗)。

 

今回は「ハッピーフライト」の感想です。

 

エンタメ要素のテンコ盛りという映画づくりの方法は、「ハッピーフライト」にも鮮明に見てとれます。

 

しかし、それが、この「ハッピーフライト」では裏目に出てしまいましたね。

 

キャピンアテンダントの卵の成長物語としては弱いし、エアパニック映画でもっと面白い映画はたくさんあります。

 

「ウォーターボーイズ」と「スイングガールズ」に共通していた、みんなで力を合わせて1つの目標を達成しようという設定も「ハッピーフライト」では、目標自体に面白み、新鮮味がなかったのです。

 

映画としての強烈なテーマがないので、見終わった後にほとんど何も残りません。そういう娯楽作品ならば、ワイド版のテレビドラマで充分ですよ。

 

「男子高校生のシンクロ」「女子高校生にようるビッグジャズバンド」という圧倒的なアイデアの輝きがないので、バラエティー・ドラマのような中途半端な映画になってしまいましたね。

 

決してダメダメなB級映画ではありませんが、矢口史靖監督には、ほどほどに面白い映画は私は期待していません。

 

スポンサーや興行などの関係で制約は多いのは想像できますが、何とか、もっと透徹感のある映画を作ってほしいと切に願います。

 

次回は「ロボジー」の登場ですよ。

矢口史靖監督の映画「ウォーターボーイズ」を見た感想

新しめの映画は滅多に紹介しないのですが、2000年以降の邦画にも侮れない作品はないわけではありません。

 

今回取り上げる、矢口史靖やぐちしのぶ)監督の「ウォーターボーイズ」は、映画の素晴らしさを思い出させてくれます。

 

矢口史靖監督作品で私が初めて見たのは「スウィングガールズ」でした。その面白さに度胆を抜かれたにもかかわらず、なぜか、その後、矢口史靖の映画に触れなかったのです。

 

今回は、偶然、You Tubeで「スウィングガールズ」を見て感動し、これはもう、他の作品も見るしかないと思って、レンタルショップに直行したのでした。

 

で、矢口監督の出世作であり代表作として評価が高い、「ウォーターボーイズ」から鑑賞することにしました。

 

矢口史靖って、何と欲張りな映画監督なのだろう。「ウォーターボーイズ」の中には視聴者を楽しませる仕掛けが、最初から最後までギッシリと詰め込まれていました。

 

こんなに入れ込まなくても良いと思うのですが、このテンコ盛りエンターテイメントが、矢口映画の真骨頂なのでしょう。

 

それにしても、この矢口史靖監督は、実にセンスが良いですね。タイミングの取り方が絶妙なので、テンポが良く、視聴者を一瞬たりとも飽きさせません。

 

そして、これまでの映画に足りなかった部分、とことん明るく、とことん元気になれる、底抜けの映像パワーを見る者に惜しげもなくプレゼントしてくれます。

 

これほどまでに突き抜けた陽性の才能は、日本映画には今まで存在し得なかったのですね。

 

邦画を語る時、昔の映画は凄かったという言葉が思わず口をついて出てしまうのですが、そういうネガティブな邦画観は、矢口史靖監督の出現により、薄れてゆくのではないかと感じるほど、「ウォーターボーイズ」は、実に面白い映画でした。

新藤兼人の映画「ある映画監督の生涯 溝口健二の記録」を見た感想

ある映画監督の生涯 溝口健二の記録」という記録映画をご覧になったことがあるでしょうか。

これはインタビュー・ドキュメントという作りになっています。

映画制作スタッフや俳優さんたちの証言をタップリと聴くことができるので、溝口健二ファンならば、必見のドキュメント。

 

この記録映画の監督をしているのが、新藤兼人監督です。

 

ある映画監督の生涯 溝口健二の記録

 

製作=近代映画協会 配給=ATG

1975.05.24

150分 カラー

製作 ................新藤兼人

製作担当 ................山本文夫

監督 ................新藤兼人

構成 ................新藤兼人

撮影 ................三宅義行

 

1946年(昭和21年)、松竹大船撮影所で、野田高梧とともに溝口健二監督作『女性の勝利』の脚本を書いた脚本家・映画監督の新藤兼人が、師と仰ぐ亡き映画監督・溝口健二の生涯を取材する。

溝口の関係者39人に新藤自らインタビューを行い、ゆかりの場所も訪ね、取材を纏め上げた。(中略)

1976年(昭和51年)、キネマ旬報賞でベスト・ワン、新藤兼人が監督賞を受賞、同年の毎日映画コンクールでも新藤が監督賞を受賞している(引用元:ウィキペディア)

 

このドキュメンタリー映画に作り方に、新藤兼人という映画監督の性質が如実にあらわれていると感じたのは私だけでしょうか。

 

正直、編集が平板なので、よほど溝口健二という監督に興味がないと、最後まで見られないのではないかと思われます。

 

NHKのドキュメントですと、もっとドラマチックに作り上げるはずです。

 

しかし、新藤兼人は、違う編集方法を採用した。

 

つまり、あえて劇的なる要素を、このドキュメントから排除したのでしょう。

 

このフラットな編集に、新藤兼人の粘り強さ、執拗さが鮮明に見て取れます。

 

やらせを排除したインタビュー形式により、できるかぎりリアルな溝口健二という人間を浮かび上がらせたかったのだと思います。

 

【この名作映画のツボ】

このある種の退屈さの中に、新藤兼人の映画作成術の本流があるのではないでしょうか。

感傷をできる限り排し、ねちっこく現実的な人間像を描き出す眼力こそ、この記録映画の捨てがたい魅力だと言えます。