今回は高村光太郎の「同棲同類」という詩をご紹介しましょう。
同棲同類
――私は口をむすんで粘土をいぢる。
――智恵子はトンカラ機(はた)を織る。
――鼠は床にこぼれた南京(ナンキン)豆を取りに来る。
――それを雀が横取りする。
――カマキリは物干し綱に鎌を研ぐ。
――蠅とり蜘蛛(ぐも)は三段飛。
――かけた手拭はひとりでじやれる。
――郵便物ががちやりと落ちる。
――時計はひるね。
――鉄瓶(てつびん)もひるね。
――芙蓉(ふよう)の葉は舌を垂らす。
――づしんと小さな地震。
油蝉を伴奏にして
この一群の同棲同類の頭の上から
子午線上の大火団がまつさかさまにがつと照らす。
この「同棲同類」が傑作である理由を語るのは、容易ではない。
いつか、語れる日が来るのではないだろうか。慌ただしい日常の時間から、私が解放された時に……。
あえて今語るとすると、時間の捉え方(時間間隔)と物の見方(視点移動)だ。
時間と視点、この特異性がたまらなくいい。しかも、その特異性は、頭でひねりだしたものではなく、高村光太郎の生き様から直接に生まれているので、説得力が半端ないのである。