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八木重吉の詩「夕焼」の全文とエピソード。

美しい詩 - 八木重吉
この記事は約 3 分で読めます ( 約 1617 文字 )

八木重吉は私が最も敬愛する詩人の一人です。二十代の前半に、「八木重吉論」を書いたほど、八木重吉の詩にはのめりこみました。

 

それなのに、私は八木重吉の詩についての感想を、このブログではほとんど書いておりません。

 

その理由は?

 

感想を書く気にもなれないほど、八木重吉の詩は無防備で、信じられないほど純粋で不純物がない。そのため、感想を語るよりも、少しでもその世界に浸っていたい感じるから。

 

ただ、今回は、意外な情報を得たことがあり、どうしても書きたいと思ったのです。

まずは、以下の「夕焼」と題する八木重吉の詩をご紹介します。

 

【動画】(朗読と鑑賞)八木重吉「夕焼」

 

夕焼

 

ゆう焼けをあび

手をふり

手をふり

胸にはちさい夢をとぼし

手をにぎりあわせてふりながら

このゆうやけをあびていたいよ

 

 

純粋なだけでなく、ここには八木重吉にしか出せない味があります。「重吉節」と呼びたくなる独自の言い回しが、ほぼのぼとした気持ちにしてくれるのですね。

 

この詩をご紹介したのには、理由があります。

 

「夕焼」という詩には、興味深いエピソードがあることをご存知でしょうか。

 

昭和22年のことです。小林秀雄吉野秀雄の自宅を訪れた時、山雅房版の「八木重吉詩集」を開いたところ、「夕焼」が目にとまり、小林秀雄は心を動かされたそうです。

 

小林秀雄は創元社に強くはたらきかけ、創元選書「八木重吉詩集」の出版を後押ししたと伝えられています。

 

吉野秀雄と小林秀雄がいなかったら、これほどまでに八木重吉の詩が知られるようにならなかったかもしれません。

 

言うまでもありませんが、小林秀雄は日本が生んだ最高の批評家。詩人・中原中也と親交があったことは有名です。また、吉野秀雄は、八木重吉の妻であった登美子と結婚した歌人であります。

 

吉野秀雄が小林秀雄に八木重吉の詩を紹介し、感銘を受けた小林秀雄が「八木重吉詩集」の出版を働きかけたとは、良い話ですね。

 

小林秀雄は八木重吉については、文章を遺してはいないと思います。

 

おそらくは、小林秀雄は八木重吉については「書けなかった」のではないでしょうか。

 

批評するには、あまりにも、単純で、純粋すぎた。

 

八木重吉という詩人について、八木重吉の詩の世界について書かれた、最も優れた文章を書いたのは高村光太郎です。

 

「定本 八木重吉詩集」の「序」が、それだと思われますので、一部を引用いたします。

 

 

詩人八木重吉の詩は不朽(ふきゅう)である。このきよい、心のしたたりのような詩はいかなる時代にあっても死なない。(中略)結局八木重吉といふ詩人の天から授かった詩的稟性が、人生の哀しみに洗われ、人生の愛にはぐくまれ、激しい内的葛藤の果てにやつと到ることの出来た彼独特の至妙な徹底境に、一切の中間的念慮を払いのけることが出来たからであろう。

 

 

「一切の中間的な念慮」を払いのけていることこそが、八木重吉の詩の最大の魅力だと言えます。

 

八木重吉の詩は単純ですが、浅くはありません。透明で純粋ですが、軽くはありません。

 

深いけれども、重苦しくない、明るく、澄明な八木重吉の詩は、概念を捨てているという点においても、モーツァルトの音楽と共通する点があると思います。

 

もう一つ、八木重吉の詩に欠かせない魅力は、意外性です。

 

「夕焼」でも、まさかふつうは「手をにぎりあわせてふりながら」という動作はしないけれども、そういう感じはすごくわかる、という表現は、八木重吉の詩にはしばしば出てきます。

 

意外性な表現がいきなり飛び出すのが、八木重吉の詩の特徴です。

 

「母をおもう」という詩の「母をつれて てくてくあるきたくなった」も、意外性充分ですよね。そのことについては、以下の記事で書いてみました。

 

⇒八木重吉の「母をおもう」は、親友が教えてくれた想い出の詩

 

独自のハッとする言い回しは、八木重吉がいかに余計なものを捨てて生きたか、捨てたからこそ大事なものだけが見えた、その証明にほかなりません。

 

八木重吉のその他の有名な詩はこちらへ

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コメント 1
  • 2019/06/11 15:28

    いつも参考にさせて頂いています。ありがとうございます。私も八木重吉の詩がとても好きです。

    一つこの詩に関して。この詩では大事な誰かと手を繋いでる、と考えられないでしょうか。
    誰かとつないだ手を元気よくふりつつ、夕焼けに向かって歩いている、夕焼けの眩しさと温かさ、平和な一日の終わりへの感謝と、この瞬間が未来永劫続いたら、という気持ちに溢れている二人がいる情景が目に浮かびました。

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