土屋 耕一「コピーライターの発想」

コピーライターという職業が花形だった頃の話。その時代のトップランナーとして、さまざまな名キャッチフレーズを書き残したコピーライター、それが土屋耕一氏です。

 

土屋耕一氏の代表作をあげてみましょう。コピーライティングに全く興味がない人も、以下のキャッチフレーズのいくつかは知っているのではないでしょうか。

 

(伊勢丹の広告、ベスト5)

こんにちは土曜日くん。

 

なぜ年齢を聞くの

 

土曜日には汗をながそう。

 

戻っておいで・私の時間

※この曲は竹内まりやのデビュー曲のタイトルにもなっている。

 

肩のチカラを抜くと、夏

 

(資生堂の広告、ベスト5)

微笑の法則(資生堂・ベネフィーク<グレイシィ>) ※柳ジョージ&レイニーウッドの曲のタイトルにも起用され、ヒットしている。

 

君のひとみは10000ボルト(同上) ※堀内孝雄の曲のタイトルにも起用され、ヒットした。

 

A面で恋をして(資生堂・サイモンピュア) ※大瀧詠一の曲のタイトルにも起用され、同じくヒットしている。

 

ピーチパイ(資生堂・ベネフィーク) ※資生堂のキャンペーンソングになった、竹内まりやの「不思議なピーチパイ」のタイトルに起用され、ヒットしている。

 

天使予報(資生堂・ルア)

 

いかがでしょうか? かなり古いコピーですが、言葉から、時代の空気が感じられますね。

 

その土屋耕一氏が、コピーライティングに関する指南書を出版されています。初版が1984年ですから、コピーライティングの全盛期と言えそうです。

 

これがその本⇒コピーライターの発想 (講談社現代新書 (724))

 

今読むと、古びて使えないどころか、今という時代だからこそ、いろんな発見がある、不思議な本です。

 

これはマニュアルというよりも、ヒント集。土屋氏自身、コピーライターという職業を「発想業」と呼んでいますが、まさにこの本は、さまざまな「発想」へのヒントが散りばめられています。

 

読み進んでゆくと、無数の星くずをテーブルの上にばらまいたように、いくつものヒントが、キラキラと 光っているのを感じます。

 

ここまでくると、ノウハウ本というよりも、ファンタジーの世界ですね。

「~こと」「~という」はなるべく使わない。

初心者の方、いえ、ある程度は書きなれている人でも、犯してしまいがちなミスがあります。それは一文の中に「こと」「という」を何度も使ってしまうことです。

 

さっそく例文をあげてみましょう。

 

× 文章でもっとも大切なことは、一語いちごを大切に使うということです。どんなに技巧を凝らそうとしても、言葉というものに対して無神経な人は、読む人を満足させることはできません。

 

○ 文章を書く時には、一語いちごを大切に使いましょう。どんなに技巧を凝らそうとしても、言葉に対して無神経な人は、読む人を満足されられないものです。

 

上の文章には「こと」「という」が多用されています。これですと、極めて稚拙に感じざるを得ません。文章が幼稚だと思われないためには、できるかぎり「こと」「という」は使わないようにすべきです。

 

下の文章は上の文章と同じ内容ですが「こと」「という」は一回も使っていません。文章としても、すっきりしていて読みやすいことは明白です。

愛語(あいご)も美しい日本語の一つに

愛語(あいご)」という言葉をご存知でしょうか。日常ではほとんど使われていませんが、意味を知ると、その美しさゆえに、日ごろから使いたくなる、極めて貴重な言葉です。

 

愛語とは、仏教から来た言葉です。亀井勝一郎氏は「愛語」を「私をささえた一言」として、すすめています。

 

大辞林は「愛語」を「仏道に導くため、親しみの気持ちを抱くような心のこもった言葉をかけること」と説明。

 

仏教から離れ、私たちの日常生活で「愛語」はどんな言葉かと言いますと、意図的ではなく、「おだいじに」とか、「ごきげんいかがですか」とか、「ごくろうさん」とか、心がこもっているがゆえに、ごく自然に出てきた言葉なのです。

 

「愛語」と単独ではなかなか使われませんが、「和顔愛語」という四字熟語ならば知っている人が多いのではないでしょうか。

 

⇒「和顔愛語」についてはこちらに

 

亀井勝一郎氏は次のように「美しい言葉」について、述べています。

 

私は人間の使うことばの中で最も美しいことばは、ひとをいたわることばだと思っている。

 

確かに、人をいたわり、自然と口から出る言葉は、美しいですね。その言葉が独立して美しいということではなく、愛情をこめて話された時に、その言葉は輝くのだと思います。

 

NHKの「美しい言葉」アンケートの結果、上位を占めたのは、ほとんどが「あいさつ言葉」でした。それらは、心を込めて使われる時、まさに「愛語」としての美しさを放つからなのでしょう。

 

ともすれば、人間関係がぎくしゃくしがちな現代。ふだんから、愛語を使う練習、つまり、心を込めて言葉を使うように心がければ、かなり人間関係は改善されるのではないでしょうか。