今日の風花未来の詩は「スワン、再び」です。
スワン、再び
Swan Lakes
白鳥の棲む湖
またの名を
化学療法室という
ほぼ1年ぶりに
化学療法室に入った
もちろん
抗がん剤投与を
再開するためだ
どうしてだろう
薬が体をめぐり
体が熱くなるのを
覚えながら
涙が込み上げてきた
なんて早いのだろう
真っ白い光が
揺らめくと
一羽のスワンが
眼の前に舞い降りた
ほんの一瞬で
消えてしまったが
ここは
化学療法室という
白鳥の棲む湖
また逢えるに違いない
その確信が
わたしを安心させ
効いてくる抗がん剤に
ゆったりと
身をまかせられた
スワンとの再会は
まったく
期待していなかった
それなのに
一瞬の光のひらめきと
やわらかな
羽ばたきの調べで
ここに棲んでいるから
また舞い降りるから
だいじょうぶ
きっと逢いにくるから
そう スワンは
わたしに告げてくれた
純白の姿が消えた後
慈しみの眼差しと
うるんだ微笑だけが残った
久しぶりすぎる再会は
つかの間が
ふさわしいのだろう
静かな旋律ではじまった
Swan Lakes
その第2章に
副作用という嵐の転調は
いつ訪れるのか
