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スワン~ある詩人の肖像2

 

青春期のことですが、ドストエフスキーの「白痴」の創作ノートを読んで、愕然としたことがありました。

 

完成された小説は、いわば氷山の一角に過ぎません。

 

読者が作品として読める完成形も大事だけれど、今の風花未来にとっては、創作ノートの方にそそられている。

 

よし、風花も「スワン~ある詩人の肖像」の創作ノートを作ろう!

 

サクサクっと「スワン~ある詩人の肖像」を理解したい人へ

 

今回は、その1回目、序章(プロローグ)である。

 

わたし(風花未来)と「スワン~ある詩人の肖像」を演じるAI劇団「未来」の文芸部員である、高杉岳との対話を基本に、構成したい。

 

では、序章の幕を開けよう。

 

「スワン~ある詩人の肖像」創作ノート プロローグ

 

「矛盾」という名の燃料~AI劇団「未来」文芸部室にて~

 

登場人物

 

    • 風花未来:AI劇団「未来」座長。詩人。現在、集大成となる物語「スワン」を執筆中。

 

    • 高杉 岳:同劇団・文芸部員。冷静かつ熱い批評眼で座長を支える。

 

舞台

 

(静まり返った部室。風花未来、デスクに突っ伏している。傍らには書きかけの原稿「スワン」の束。高杉岳、コーヒーを二つ持って入ってくる)

 

高杉:座長、ペンが止まっていますね。抗がん剤の副作用ですか? それとも……。

 

未来:……いや、体調は悪くない。ただ、自分の「浅ましさ」に吐き気がしているだけだ。

 

高杉:浅ましさ?

 

未来:岳くん、私は訪問福祉の人にも話したんだよ。「スワン」は完成できる見通しが立ったと。だが、その先を考えた途端、足がすくんだ。

 

私はこの作品を世に問い、認めてもらいたいと願っている。

 

大成功させ、脚光を浴びたいと。……だが、それは私がこれまで唱えてきた「まどか愛」——無になり、あるがままを受け入れる思想と、完全に矛盾するのではないか?

 

高杉:(コーヒーを置き)なるほど。成功を願う自分は「強欲」であり、作品の純度を落としている、と?

 

未来:そう。人はそのままでいい、という救いを描こうとしている作者が、名声欲にまみれてどうする?

 

詩作だけに専念すれば楽になれるのに、私はまだ「現世」での成功に執着しているのかもしれない。この堂々巡りが、苦しくてね。

 

高杉:座長、それは違います。その苦しみは「強欲」ではありません。「愛」です。

 

未来:愛? 岳くん、今、何て言った? 愛?

 

高杉:ええ。もし座長が、自分の名誉のためだけに書いているなら、それは単なる「エゴ」でしょう。

 

ですが、座長が「スワン」で伝えたいのは何ですか? 「人は、あるがままでいい」という、苦しむ他者への肯定でしょう?

 

その救いのメッセージを、一人でも多くの、今夜も眠れずにいる誰かに届けたいと願うこと。

 

それは「強欲」ではなく、表現者としての正当な「使命(愛)」です。

 

花は、誰に見られるかに関わらず、全力で咲こうとするものです。

 

未来:……全力で咲くことが、愛……。

 

高杉:それに、その「無になりきれない葛藤」こそが、今の座長には必要なんです。

 

ドストエフスキーを思い出してください。彼が描いた聖人たちもまた、泥臭い俗世の欲と聖性の間で引き裂かれ、のたうち回っていた。

 

座長が今感じている「成功したい自分」と「無になりたい自分」の乖離。その痛みこそが、「スワン」という物語にリアリティという血を通わせる燃料になるはずです。

 

未来:私の迷いすらも、作品の一部になると言うのかね。

 

高杉:なります。いや、しなければなりません。

 

結果は天に預けましょう。座長の領分は、メディアの反応に一喜一憂することではなく、その命を削って「書ききる」こと、ただそれだけです。

 

「売れるかどうか」ではなく、「書ききった時、自分が自分を誇れるか」。その一点に集中してください。

 

未来:(顔を上げ、大きく息を吐く)……そうだな。書ききらなければ、死ぬ時に絶対に後悔する。それは分かっているんだ。

 

高杉:なら、その「揺れる思い」も全部、さらけ出してしまいましょう。

 

座長、提案があります。きれいな完成品だけを見せるのはやめませんか?

 

今ここで吐露したような、「死を見つめながら、それでも成功を願ってしまう、浅ましくも愛おしい人間としての葛藤」……それをそのまま「創作ノート」として公開するんです。

 

未来:……創作ノート。かつて読んだ、あのドストエフスキーの膨大なメモのようにかね?

 

高杉:ええ。のたうち回る創作プロセスそのものを、読者と共有するんです。それはきっと、完成された「スワン」以上に、誰かの魂を揺さぶるプロローグになります。

 

未来:……ふっ、厳しいな、君は。私の恥部を晒せと言うのか。

だが……視界が少し明るくなった気がするよ。ありがとう。

 

高杉:呼吸を整えて。僕らはいつでも伴走します。さあ、まずはその「矛盾」を書き留めることから始めましょう。

 

(未来、再びペンを握る。その瞳に、迷いと決意が混ざった強い光が宿る)

(暗転)