眠りの森~風花未来の詩36

風花未来の今日の詩は「眠りの森」です。

 

眠りの森

 

抗がん剤の副作用がきつい時には

起きてはいられない

目覚めてはいられない

 

人を人でなくする混沌

滅亡への怪しい不協和音に

耐えつづけられないから

横になる

 

横になるとすぐに眠りに落ちる

やがて眼が覚めるのだが

少し起きてぬるま湯を飲み

また横になると

またすぐに眠りに落ちる

 

まるで眠り病だ

何時間でも眠れる

眠らないではいられない

そういう薬物で造化された

私ではない私でいる時間帯

その悪魔的な時空間を

「眠りの森」と名づけたい

 

「眠りの森」で見る夢には

天使はあらわれない

姫も小人も

誰も見えない

そもそも「眠りの森」では

夢すら見れないのかもしれない

 

何もおぼえていない

「眠りの森」に沈んでいる時のことを

たぶん怖ろしいことが

吹き荒れすぎていて

記憶の回路が消滅しているのだろう

 

目覚めて体を起こしていると

悪寒と火照りの

不連続攻撃を受けるので

また横になるしかない

 

また落ちてゆこう

記憶のない闇に

私ではない私がいる場所に

音もなく

吸い込まれてゆこう

「眠りの森」に

 

だが

もしも

「眠りの森」で目覚めたら

私はどうなるのだろうか

 

とにかく副作用がきつい時は、寝ているしかありません。実際に、いくらでも眠れます。

 

だから、詩の中では「眠りの森」と、眠っている状態のことを表現しているのです。

 

要するに「眠りの森」が詩に出てくる時は、副作用が最も強い状態だと思っていただければ幸いです。

 

「眠りの森」は以下の詩にも出てきますので、ご一読くださり、今回の詩と比べていただけると嬉しいです。

 

眠りの森の小さな天使

天使が消えた夜~風花未来の詩35

今日の風花未来は「天使が消えた夜

 

天使が消えた夜

 

抗がん剤の副作用が

激しい日のことを

「天使が消えた夜」と

呼ぶことにした

 

情け容赦ない暴風雨の日に

私は天使を呼ばない

天使は来るべき時に来る

天使に救われようと

思ってはいけない

 

自分を救う道は

ただ一つ

自分であること

 

のたうちまわっていても

悪寒と火照りで苦しんでいても

自分さえ見失わなければ

天使は遠くで見てくれている

と私は信じている

白い姿は見えないけれど

 

今日も「天使が消えた夜」だ

 

論理体系を失った頭に

つぎつぎに現れる

物語としてつながらない

脈絡なしの幻覚風景が

明滅しながら

回転しながら

飛び去ってゆく

 

「天使の消えた夜」では

狂っているのが当たり前

 

手も脚もしびれて

自由にならないことが

当然なので

これに逆らってはいけない

 

夢も慈悲も憧れも

何もない世界が

「天使が消えた夜」だ

だから求めたら

余計に苦しくなる

 

無節操な台風は

いつか過ぎ去る

 

果てしのない

凍った夜の底で

 

清らかな

静けさの中で

白い光が

さざ波となって

打ち寄せてくる時を

 

私ではない私の中の

かすかな私らしい私が

ささやくように

夢見ている

祈っている

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嵐の中の誓い~風花未来の詩34

風花未来の今日のは「嵐の中の誓い」です。

 

 

嵐の中の誓い

 

抗がん剤の副作用という

無慈悲な嵐はきた

 

自分が自分でなくなる

 

手足がしびれ

呼吸が苦しくなり

常温のものしか食べられなくなる

 

映画を観ても

内容が理解できなくなる

 

過去と現在と未来を

希望のために

組み立てる

思考力が失われてしまう

 

滅亡への急降下

 

不安と恐怖がふくらむ夜

自死の誘惑に襲われる……

 

じゃあ

この苦しみの権化である

抗がん剤投与を

どうしたら やめられるのか

 

死ぬか

治すか

 

それと もう一つ

抗がん剤投与を

自分の意志で拒否すること

 

抗がん剤投与ではない

別の方法で治癒を目指すのか

 

負の電磁波が全身をかけめぐる中

私は一つの悟りを得た

 

癌の治療法は

無数に出まわっている

 

だが 実は

癌を癒すために

もっとも大事なことは

余命3ヶ月宣告をくつがえす

主役となるのは

ただ 一つしかない

 

 

自分が自分でありつづけるために

心で生きようとすること

 

闇の向こうに光を見出し

凍てついた絶望を希望でとかし

すべてを肯定の光で包みこむ

大きな愛に抱かれ

自分らしい光を発しつつ生きると

心に誓うこと

 

奇跡を起こす源の力は

心のほかにはない

抗がん剤投与も

心がなければ

続けても止めても

癌は癒えないだろう

 

無慈悲な嵐は

繰り返しやってくるだろう

しかし

制御できない乱気流の中でも

見失うまい

動かされるまい

 

私はずっと私

本当の私でありつづける

 

私らしく

心で生きようと

嵐の中で誓いつづけよう

どんなことが起きても

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