安全な場所から若者を死地へ送る者への容赦なき怒り:ボブ・ディラン「戦争の親玉」を読む
2016年にミュージシャンとして初めてノーベル文学賞を受賞したボブ・ディラン。
彼が1963年、弱冠21歳で発表したアルバム『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』に収録された「戦争の親玉(Masters of War)」は、音楽史に残る最も強烈なプロテスト・ソング(抗議歌)の一つです。
戦争の親玉(Masters of War)
Come you masters of war
You that build all the guns
You that build the death planes
You that build all the bombs
You that hide behind walls
You that hide behind desks
I just want you to know
I can see through your masks.
さあ 戦争の親玉たちのお出ましかい
あんたたちは銃器を作り
あんたたちは人を殺す飛行機を作る
あんたたちは爆弾を作り
あんたたちは壁の後ろに隠れて
机の陰に隠れてる
あんたたちにこれだけは知っておいてほしい
あんたたちの仮面の下の素顔がお見通しなんだ
You that never done nothin'
But build to destroy
You play with my world
Like it's your little toy
You put a gun in my hand
And you hide from my eyes
And you turn and run farther
When the fast bullets fly.
あんたたちは何もしないんだ
壊すこと以外はね
俺の住む世界を
ちっぽけなおもちゃのようにもてあそぶ
俺の手に銃を握らせ頭にかざしたら
俺の目前から消え失せる
目にもとまらぬ速さの銃弾が撃たれたら
まわれ右をして遠くに逃げるんだ
Like Judas of old
You lie and deceive
A world war can be won
You want me to believe
But I see through your eyes
And I see through your brain
Like I see through the water
That runs down my drain.
いにしえのユダのように
嘘をついて騙すんだ
「世界大戦は勝つ」
そう俺に信じ込ませようとする
でもあんたたちの目を見りゃわかるぜ
俺にはあんたたちの頭のなかがわかる
下水管のなかを流れる水のように
透けて見えているのさ
You fasten all the triggers
For the others to fire
Then you set back and watch
When the death count gets higher
You hide in your mansion'
As young people's blood
Flows out of their bodies
And is buried in the mud.
他の奴らには撃たせておいて
あんたたちは自分の引き金は止めておく
そして奥に下がって眺めるんだ
死者の数が増してきたなら
自分の邸宅にひきこもるんだ
若者は身体から血を溢れさせて
泥のなかに埋められていく…
You've thrown the worst fear
That can ever be hurled
Fear to bring children
Into the world
For threatening my baby
Unborn and unnamed
You ain't worth the blood
That runs in your veins.
あんたたちはこれまでにないほどの
最悪の恐怖をふりまいたのさ
この世に子どもを産むことの
恐怖を運んできたんだ
生まれる前の 名前もない
俺の赤ちゃんを脅かすんだ
あんたたちはその血管のなかに
流れる赤い血に値しないんだ
How much do I know
To talk out of turn
You might say that I'm young
You might say I'm unlearned
But there's one thing I know
Though I'm younger than you
That even Jesus would never
Forgive what you do.
立場を考えずモノを言うなんて
俺はどれだけのことをわかっているのか
あんたたちは言うかもしれない
俺はまだ若くて
何も知らない若造だと
でも俺もおまえより若くたって
ひとつだけわかってることがある
それはイエス様ですら
あんたたちがすることを
決して許しはしないということさ
Let me ask you one question
Is your money that good
Will it buy you forgiveness
Do you think that it could
I think you will find
When your death takes its toll
All the money you made
Will never buy back your soul.
一つだけ聞きたいことがある
そんなに素晴らしいあんたたちの金で
許しを買うことができるのかい?
本当にできると思ってるのかい?
あんたたちもそのうちわかるはずさ
あんたたちの死は損失をもたらすのさ
有り金を全部積んだって
魂は絶対に買い戻せやしない
And I hope that you die
And your death'll come soon
I will follow your casket
In the pale afternoon
And I'll watch while you're lowered
Down to your deathbed
And I'll stand over your grave
'Til I'm sure that you're dead.
あんたたちも死ぬがいいさ
死はまもなく訪れる
俺はあんたたちの棺桶を
薄暗い午後に追いかけていく
あんたたちが死のベッドに横たえられて
埋められるのを見届ける
そして その墓の上に立って
しっかり死んだのか確かめてやるよ
冷戦下の核戦争の恐怖が世界を覆っていた時代に書かれたこの作品は、平和を優しく祈るような反戦歌ではありません。
ここにあるのは、戦争によって利益を得る権力者や死の商人(軍産複合体)に向けられた、むき出しの「怒り」と「呪い」です。
ディランがどのような言葉で戦争の首謀者たちを告発したのか、3つのポイントから読み解いていきます。
- 「血を流さない権力者」の卑劣さへの告発
あんたたちは壁の後ろに隠れて
机の陰に隠れてる
あんたたちにこれだけは知っておいてほしい
あんたたちの仮面の下の素顔がお見通しなんだ
詩の前半(第1〜4連)で徹底的に糾弾されるのは、「戦争の親玉」たちの卑怯な振る舞いです。
彼らは自らの手を汚すことはありません。壁の後ろや机の陰に隠れ、世界を「ちっぽけなおもちゃ」のようにもてあそびます。
若者の手に銃を握らせながら、いざ自分たちに危険が迫れば一目散に逃げ出し、安全な「邸宅」に引きこもるのです。
若者は身体から血を溢れさせて
泥のなかに埋められていく…
自らは安全な場所に留まりながら、未来ある若者たちを泥塗れの死地へと送り込む。
この構造の非情さを、ディランは「仮面の下の素顔はお見通しだ」「下水管を流れる水のように透けて見えている」と、鋭い言葉で暴き出します。
- 未来を奪う罪と、若者からの痛烈な弾劾
あんたたちはこれまでにないほどの
最悪の恐怖をふりまいたのさ
この世に子どもを産むことの
恐怖を運んできたんだ
第5連では、戦争がもたらす最大の罪が語られます。
それは、これから生まれてくる命、未来の世代から生きる希望を奪い「恐怖」を植え付けたことです。
続く第6連で、ディランは権力者たちから見れば自分が「何も知らない若造」に過ぎないことを自覚しつつも、だからこそ言える絶対的な真理を突きつけます。
「イエス様ですら、あんたたちがすることを決して許しはしない」。
当時のアメリカ社会において、キリスト教の神の権威を持ち出して相手の罪を断罪することは、大人の欺瞞に対する若者世代からの最大級の反逆であり、魂の叫びでした。
- 金では買えない魂と、戦慄の「究極の呪い」
あんたたちも死ぬがいいさ
死はまもなく訪れる
(中略)
そして その墓の上に立って
しっかり死んだのか確かめてやるよ
この詩が今なお特別な異彩を放っている最大の理由は、この戦慄すべき最終連にあります。
第7連で「あんたたちの金で、許しを買うことができるのかい?」と問い詰めた後、詩人は彼らに対して「死ぬがいいさ」と明確な呪いの言葉を投げつけます。
そして、薄暗い午後に彼らの棺桶を追いかけ、墓の上に立ち、「しっかり死んだのか確かめてやる」という宣言で詩は幕を閉じます。
そこには、敵への哀れみや和解の余地は一切ありません。
反戦歌にありがちな「人類愛」や「平和への祈り」すら放棄し、ただ絶対的な拒絶と死を望むという結末は、聴く者に衝撃を与えます。
しかし、それほどまでに、戦争をビジネスとして消費する権力者たちの罪は重く、決して許されるべきではないというディランの途方もない怒りの深さが、この凄まじい表現を生み出しているのです。
まとめ
ボブ・ディランの「戦争の親玉」は、抽象的な国家やイデオロギーを批判するのではなく、戦争という巨大なシステムを裏で操る「生身の人間たちの強欲と卑怯さ」に狙いを定めた作品です。
「お前たちが若者を殺しているのだ」という逃げ場のない告発。
発表から60年以上が経過した現在でも、世界のどこかで紛争が起こるたびに、安全な場所から戦争を煽る者たちが存在し続けています。
ディランの若く研ぎ澄まされた怒りの言葉は、時代を超えて、そのような「戦争の親玉」たちの仮面を今も容赦なく剥ぎ取り続けています。


