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今日の風花未来の詩は「奇跡のコーヒー」です。
奇跡のコーヒー
澄みきった蒼空に
浮かぶ雲を見つめていると
想い出すことがある
ひとりの人と
一杯のコーヒーの話
そのコーヒーを飲んだ直後
わたしは 号泣していた
コーヒーを飲んで
泣いたのは初めてだった
どうしたんだろう
何が起きたのだろうか
美味しさが
心に
いや 魂の奥深くまで
沁みわたった
その日から
店主が
突然 消えてしまうまで
わたしは
ほぼ毎日
そのカフェに
通いつづけた
どうして
こんなに美味しい
コーヒーを
淹れられるのかと
店主にきくと
微笑みながら
一枚のメモ用紙に
コーヒーの淹れ方を
書いてくれた
コーヒー豆は
自分で海外にまで出かけ
選びぬいて仕入れる
豆の保存温度
お湯の温度
ドリップペーパーは自然紙
豆の挽き方
いろんなことに
こだわっているのは
わかったが
それだけなら
わたしが
一口飲んだだけで
号泣するはずがない
愛情だ
それしかない
けたはずれの
純粋で
温かく
あふれる愛
一杯いっぱいのコーヒーに
惜しげもなく愛を注ぎ込む
店主の存在が
孤独な わたしの支えだった
半年もの間
毎日 通っていたが
風邪をひいて
三日ほど
その店に行かなかった
半年間で
そのカフェ通いを
休んだのは
三日間だけ
それなのに
風邪が治って
再び その店に行くと
店主の姿は 消えていた
海外で
子供たちのために
働きたくて
旅立ったという
たった三日間のブランクが
恨めしかった
その街を
数か月後に
わたしは 引っ越した
あのコーヒーが飲めない
あの人のいない
街に住んでいても
意味がない気がして
幻のカフェで飲んだ
奇跡のコーヒー
あの時
魂にまで沁みわたった
澄明な愛があれば
わたしも きっと
残りの人生で
奇跡を起こせるだろう
そんな気がしている
読んでくださって、ありがとうございます。いかがでしたでしょうか。
この詩には、難しい言葉はひとつも出てきませんよね。
一人の男が、カフェでコーヒーを飲んでいる。ごく普通の風景です。
でも、こんなふうに考えてみたら、どうでしょう。
広い宇宙の中で、地球という星が生まれて、何十億という人間がいる中で、私とあなたが同じ時代に生まれて、こうして、一篇の詩をキッカケに出会えたこと。
今日、この瞬間に、一杯のコーヒーの話で、こうして心を通わせることができていること。
詩の中に出てくる店主の淹れたコーヒーに込められた「愛」や、美味しすぎるコーヒーも「奇跡」ですが、一篇の詩を通じて、私とあなたが、なんだか、とっても幸せなことを分かち合えている……。
これはもう、立派な「奇跡」といっても、いいんじゃないでしょうか?
そう、詩って、素晴らしいんです!
普段、私たちは忙しくて、つい「当たり前」だと思って見過ごしてしまいます。
でも、もしもあなたが孤独で寂しい夜だとしても、一杯のコーヒーを美味しいと感じて、感動できる心があるのなら、それはとても大切なことだし、「奇跡」と言っても大げさじゃありません。
詩というのは、そんなふうに毎日の中に隠れている「小さな奇跡」を、言葉でそっとすくい上げて、忘れないように瓶詰めにするようなものだと思うのです。
だから、高尚な趣味でもなんでもなくて、本当は毎日の生活そのものなんですよね。
呼吸するように、詩は味わえるもの。
そう、とっても簡単なんです。
この詩を読んだあと、もしあなたがコーヒーを飲む時、この詩を想い出して、ふんわり温かい気持ちになってもらえたら、また、辛い気持ちが少しでも癒されたのなら、作者としてこんなに嬉しいことはありません。
今日のコーヒーは、いつもよりちょっとだけ、甘く感じるかもしれませんよ

