このブログ「美しい言葉」では、山田太一が脚本を担当したテレビドラマはすべて見てしまうことを目指しています。山田太一ほど、言葉の力にこだわったシナリオライターはいないからです。

 

さて、今回は1992年に放送された単発(1話完結)のテレビドラマ「悲しくてやりきれない」の感想をお届けします。

名取裕子役所広司柄本明の3人が主役です。

 

ロードムービー的構成になっていますが、通常ですと、バディものといって、二人のコンビが行く先々で事件に遭遇するというパターンが多いのですが、このドラマは、3人のドタバタ劇をものの見事に描ききっています。

 

500万円を盗まれてしまった名取裕子が、柄本明と力を合わせて現金を取り戻してゆくという、山田太一らしからぬ設定がハマっていました。ぐいぐいと引きつけられ、気が付けば最後まで見てしまったという感じ。

 

このドラマの中でも、詩が紹介されています。

 

黒田三郎の「僕はまるでちがって」という詩です。

 

全文が紹介されるわけではないのですが、非常に効果的に使われています。

 

ここでは、全文を引用してみましょう。

 

僕はまるでちがって

 

僕はまるでちがってしまったのだ

なるほど僕は昨日と同じネクタイをして

昨日と同じように貧乏で

昨日と同じように何も取柄がない

それでも僕はまるでちがってしまったのだ

なるほど僕は昨日と同じ服を着て

昨日と同じように飲んだくれで

昨日と同じように不器用にこの世に生きている

それでも僕はまるでちがってしまったのだ

ああ

薄笑いやニヤニヤ笑い

口をゆがめた笑いや馬鹿笑いのなかで

僕はじっと眼をつぶる

すると

僕のなかを明日の方へとぶ

白い美しい蝶がいるのだ

 

黒田三郎の「ひとりの女に」という詩集の中に収録されているそうです。

 

柄本明はドラマ中で、名取裕子に、あなたと出逢って僕はまるで違ってしまった、というふうなことを言うのですが、そのタイミングが、唐突であり、絶妙なのでした。

 

この「悲しくてやりきれない」は、珍しく理屈ぬきに楽しめるドラマとなっています。と同時に、見終ったあとに、あれこれと、感想を述べたくなる深い味わいもあるのです。

 

ほろ苦いのに、かむうちに妙な甘味も出てくるドラマ。こういう作品は、滅多にありませんね。

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