パナマの平和維持モデルはコスタリカと似ているようでいて、「運河」という世界最大級の地政学的・経済的要衝を抱えている点で非常にユニークな特徴を持っています。
パナマがどのように平和と国家の安全を維持しているのか、その中核となる4つのポイントを解説します。
-
軍隊の廃止(1994年の憲法改正)
パナマは現在、コスタリカと同様に常備軍を持っていません。
かつてはパナマ国防軍が存在していましたが、マヌエル・ノリエガ将軍による独裁政権と麻薬取引問題などを理由に、1989年にアメリカ軍がパナマに侵攻しました(パナマ侵攻)。
この結果、国防軍は解体され、その後1994年の憲法改正によって「常備軍の保持を禁止」することが明記されました。
つまり、他国からの侵略によって軍を解体されたのち、自ら非武装化を選択したという歴史的背景があります。
-
重武装の「国家保安隊(警察)」による治安維持
軍隊はありませんが、パナマは完全に「非武装」というわけではありません。
国家の治安維持や国境警備のために「パナマ国家保安隊(Fuerzas Públicas)」という組織を保持しています。
これには国家警察、航空海軍局、国境警備局などが含まれており、他国の一般的な警察よりも重武装(軍隊に近い装備や訓練)をしています。
国防というよりは、国内の治安維持、麻薬組織の取り締まり、そして国境や沿岸の警備に特化した実力組織です。
-
パナマ運河の「永世中立」とアメリカの存在(最大の抑止力)
パナマの安全保障を語る上で絶対に外せないのがパナマ運河です。
1977年にアメリカと結ばれた「新パナマ運河条約(トリホス・カーター条約)」により、1999年末に運河の返還が実現しました。
同時に結ばれた「パナマ運河の永久中立と運営に関する条約」によって、運河は平時・有事を問わずすべての国の船舶が安全に通行できる「永世中立」が宣言されています。
しかし、この条約には非常に重要なポイントがあります。
それは、「運河の安全や中立性が脅かされた場合、アメリカがそれに介入(軍事介入を含む)する権利を保持している」ということです。
パナマ自身は軍隊を持ちませんが、世界の海運の要である運河を守るために、事実上「世界最強のアメリカ軍が背後に控えている」状態であり、これが他国への絶大な抑止力になっています。
-
経済的・地政学的な「ソフト・ディターレンス(軟らかい抑止力)」
パナマ運河は世界の海上貿易の生命線です。もし他国がパナマを攻撃し運河が機能停止に陥れば、世界中の経済がパニックに陥り、アメリカだけでなく中国やヨーロッパ諸国からも猛反発を受けることになります。
つまり、「パナマを攻撃することは、世界中の大国を敵に回すことと同義である」という地政学的な価値そのものが、国家を守る強力な盾(防衛力)として機能しています。
まとめ:パナマモデルから日本が学べること
パナマのモデルは、「自国に軍隊を置かず、大国の軍事力(アメリカ)を安全保障の究極的な担保としつつ、自国の存在価値を世界経済に深く組み込むことで攻撃をためらわせる」という、非常に計算された、あるいは歴史的環境が生み出したハイブリッドな生存戦略です。
●自国に軍隊を置かない
●大国であるアメリカの軍事力を安全保障の究極的な担保に
●自国の存在価値を世界経済に深く組み込む
日本とはスケールや状況が異なりますが、日本の防衛を考える上でも以下の示唆を与えてくれます。
- 物理的な武力(自衛隊)や同盟(日米安保)だけでなく、「日本が攻撃されれば世界中が困る」という不可欠な経済的・技術的地位(例えば半導体素材や高度なサプライチェーンなど)を確立することも、立派な「防衛力」になり得るということです。


