一年のうちで必ず何度か想い浮かぶ情景がある。

あれは、おそらくは、小学3年生くらいのことだったと思う。

雨の日、友だちの家の縁側に、なぜかひとり座って留守番をしているのだ。

ポツンと取り残された幼い私は、一心に雨を見つめていた。

静かだった。

風がないので、雨は糸をまっすぐに垂れるように降っている。

樹木は雨を浴びて、若緑に輝いていた。

今でも鮮明によみがえるのは、あの静けさと、雨の匂いだ。

あの甘い懐かしい匂い。

今では、雨に匂いがあることさえ忘れてしまっているけれども、あの時の私は、雨の匂いが、体に沁み入ってゆくのを、確かに感じていた。

一年のうちで必ず一回、あの雨の匂いに浸っていた時に帰りたいと思う。