風花未来の今日の詩は「天空を渡る鳥」です。

 

 

天空を渡る鳥

 

あの時から

わたしは変わった

 

幼い頃

あれは

静まりかえった

夕暮れ時だった

 

ひとりで遊び疲れて

家に帰る途中

 

なぜか あの時

ふと わたしは

真上を見上げた

 

目に入ったのは

鳥の群れだった

 

渡り鳥だろうか

ふだんの暮らしでは

見たことがない

鳥たちだった

 

頭上はるか遠くの空を

飛んで行くのに

なぜか くっきりと

細部の形状までが見えた

 

空気が澄んでいたからか

それとも

わたしの心がいつもと違っていたから

あれほどまでに鳥の姿かたちが

鮮明に見えたのか

 

どれくらいの時間

わたしは 鳥を見つめていたのか

それは わからないが

何もかもを忘れて

ただ 鳥を見つめていた

 

あの時から

わたしは変わった

 

あれから

気が遠くなるほど

時が流れているのに

 

あの日 あの時に見た

天空を渡る鳥たちほど

美しいものを

この世で 一度も

見ていない気がする

 

あの時のことを

想いだすと

碧色に澄んだ

深い清流のように

心が奥底から

しっとりと

透きとおってゆくのだけれど

 

と同時に

怖い気持ちにもなる

 

あの時

独りぼっちの少年は

美しい鳥に

心をうばわれた

というより

少年の魂は

空に吸い上げられてしまった

 

あのまま

少年が昇天ししまっても

何の不思議もない

 

もしも そうなったら

今 ここで こうして

息をしている わたしは

いないことになる

 

そうした想いが

怖いほど

しっとりと

心になじんでくる

 

あの時と同じくらい

静まりかえった

人生の夕暮れ時に

わたしは 立っている