今日の風花未来の詩は「白鳥が棲む湖のほとりで」です。
白鳥が棲む湖のほとりで
体全身がしびれるほど
冷えきっていて
布団から
なかなか出られない
窓の外は夕暮れのように暗い
立ち上がれないのは
異常な冷え込みのせいか
春を遠ざける
雪まじりの雨のせいか
いや
違う
今日は
抗がん剤投与から
四日目の朝
自宅でも46時間
抗がん剤を投与し
昨日 ようやく
針がぬけたのだ
副作用は
真夜中の
冷たい霧のよう
私の全身を包みこみ
芯まで
しびれさせ
私の中の光を
奪おうとしているかのよう
だが しかし
数ヶ月前の苦しみとは
あきらかに違っている
あの時は
眠りという深い
底なしの沼に
沈んでゆくしかなかった
でも 今は 違う
深い霧におおわれていても
時が経てば
霧のかなたに出られる
霧のかなたには
明るい地平が
広がってゆく
その期待が
かなうという確信が
冷たいしびれに
全身をしばられていても
私の中で
脈打っている
私がはまっているのは
絶望の沼ではない
聴こえてくるのは
白鳥の羽ばたき
優雅な舞いが起こす
風のささやき
初恋のように
人が愛しくなる
切ないけれど
甘く透き通った旋律
そう
私が今いるのは
白鳥が棲む
湖のほとりなのだ
まだ
体はしびれたままだけど
いつか
悪魔の呪いはとける
愛の指輪は
きっと見つかる
あと少し
もう少し……