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風花未来の今日の詩は「つながることの奇跡」です。
逢えて 話せて 微笑みあえて
ひょっとしたら今日は
化学療法室を出た後
スワンのことを
詩にすることになる
そんな予感を
覚えながら
抗がん剤の投与を受けた
だが
その予測は
完全に吹き飛んだ
スワンのこと
天使のことを
語る余裕が
今日の
わたしにはない
予測不可能な
大きな事件が
化学療法室で起きたから
気が遠くなるほど
以前の記憶
残酷な闇が
生々しくよみがえった
映写機がカラカラと
むなしい音を立てて
空回りしていた記憶
愛する人が
突然 わたしの前を去り
その人の記憶は
そこで途切れた
記憶という
フイルムが
突然 切れてしまったまま
気が遠くなるほどの歳月が流れた
あの遠くて深い
静寂の闇から
一転
光が天から降りてきて
わたしを包んだ
今日は
一度切れたフイルムがつながった
遠い遠い過去に
わたしの前から消えた
あの人ではなく
この化学療法室で
出逢い
擦れ違ってしまった人に
今日 ようやく
逢えたのだ
去年 わたしが
余命3ヶ月宣告を受け
視界が閉ざされている時
わたしを純白の光で照らし
詩を書く歓びを
よみがえらせてくれた人に
ここで
また
逢えたのだ
今日は
天使とか
スワンとか
そういう言葉は
使いたくない
逢いたかった人に
逢えて
話せて
微笑みあえて
自分でも
驚くほど
素直な気持ちに
ふうっとなれたから
大事な記憶という
映写フイルムが
つながる歓びを
何という言葉で
あらわしたら良いのだろう
運命とか
奇跡とか
そういう言葉も
今日は使いたくない
逢いたかった人に
逢えて
話せて
微笑みあえて
途切れたものが
つながり
息を吹き返し
脈打ちはじめた
心の中で
切れたフイルムがつながり
人と人がつながり
明日へと
新しい命が
つながってゆく
わたしは
今日
確かに
生まれ変わった
明日へ
「スワン~ある詩人の肖像」の脚本制作を手伝ってくれている、高杉岳くんが、今回の詩「逢えて 話せて 微笑あえて」について、感想を贈ってくれたので、以下、紹介します。
風花未来さん、昨日の化学療法室での再会、本当におめでとうございます。
読ませていただいた瞬間、胸が熱くなりました。
奇跡的なその出来事が、単なる「偶然」や「幸運」という言葉では片付けられない、もっと重たく、かつ透明な「命の手応え」として迫ってきたからです。
「スワン~詩人の肖像」への神託とも受け取れるこの出来事を、これほどまでに素直に、そして残酷なほどの正直さで綴られた詩に、深く感銘を受けました。感想を述べさせていただきます。
- 「切れたフイルム」がつながる音
この詩の中で最も心を揺さぶられたのは、「映写機」と「フイルム」の比喩です。
かつて25歳の時に味わった、愛する人が去り、記憶が途切れてしまった時の描写——
映写機がカラカラと
むなしい音を立てて
空回りしていた記憶
この「カラカラと」という乾いた音が、風花さんの心の中に44年間ずっと鳴り響いていた孤独の音なのだと感じました。
その音が、昨日、スワンの化身である看護師さんに再会したことで、カチリと音を立てて止まり、物語が再び動き出した。
過去のトラウマ(切れたままのフイルム)を、現在の歓びが修復し、つなぎ合わせるというダイナミズムが、この詩の白眉です。
- 「言葉の拒絶」が生むリアリティ
詩の中盤から後半にかけて、風花さんはあえて「詩的な言葉」を拒絶しています。
今日は
天使とか
スワンとか
そういう言葉は
使いたくない
運命とか
奇跡とか
そういう言葉も
今日は使いたくない
普段、詩人として大切にしているはずの美しい言葉たちを「今日は使いたくない」と突き放すことで、目の前の「逢えた」という事実の圧倒的な質量を表現されています。
言葉で飾る必要さえないほど、その再会が純粋で、生々しい歓びであったことが伝わってきます。
その結果残ったのが、タイトルにもなっている「逢えて 話せて 微笑みあえて」という、極めてシンプルで、しかし人間の根源的な幸福を表す動詞たちです。
この3つの言葉のリズムが、再開した心臓の鼓動のように温かく響きます。
- 「再生」への確信
わたしは
今日
確かに
生まれ変わった
結びのこの宣言には、迷いがありません。
余命宣告という暗闇の中で一度出会った光に、再び出会えたこと。
それは、単に懐かしい人に会ったという以上の意味を持っています。
風花さんがこれから書こうとしている「スワン~詩人の肖像」という物語に、現実世界が「それでいい、書きなさい」と強烈なGOサインを出した瞬間だったのではないでしょうか。
この詩は、風花さんの人生という映画の、最も劇的なワンシーンの記録だと思います。
「切れたフイルムがつながった」という感覚は、そのまま創作のエネルギーに直結するはずです。
神様(あるいはミューズ)が用意してくれたこの再会を糧に、「スワン~詩人の肖像」がどのような作品へと昇華されるのか、私も心から楽しみにしています。
まさに、明日へつながる名篇でした。


