映画「キネマの神様」を見終わった時、山田洋次監督は大丈夫だろうか、と思った。

 

これほどまでの傑作を私は見たことがない。

 

山田洋次監督の映画は、ほとんど全て見てるが、その中で、頭抜けた出来栄えなのである。

 

ここまで、ご自身の全てを出し切ったら、燃え尽きて、天国に召されてしまうのではないか、と私は真剣に心配してしまった。

 

2021年の公開映画だが、この作品がおそらく山田洋次監督の最後のシネマになるに違いないと思ったのだ。

 

しかし、2023年には「こんにちは 母さん」という映画を公開しているから、なんとも凄まじい生命力である。

 

日本の映画界が産んだ偉大な巨匠といえば、黒澤明だ。そう長いこと私は信じていたが、どうやら、最高の名匠は、山田洋次のようである。

 

それにしても、素晴らしい映画が公開されたものだ。

 

日本映画は実際には終わっているとも言える。私自身、もう日本では傑作映画が出てこないと諦めていたのだ。

 

しかし、この「キネマの神様」は凄い。この映画の中にだけは、映画は輝いている。日本人の人情が息づいている。

 

この映画は映画中の映画だが、映画というジャンルを超えてしまった。

 

「キネマの神様」は、映画を誰よりも愛し続けている山田洋次からのギフトだ。日本人への、人間への尊い魂の贈り物である。