何十年も前の映画を見ていると、名画と呼ばれる作品でも、かなり古びてしまっている部分がアダになって、その作品が好きになれなくなってしまうこともあります。

 

今回ご紹介する新藤兼人監督の「藪の中の黒猫」は、1968年の映画ですが、今見ても、古さをあまり感じ無い秀作です。

 

幻想的怪奇映画の名作といえば、すぐに思い浮かぶのが、溝口健二の「雨月物語ですよね。

 

この永遠の名作に迫る妖気を放つのが「藪の中の黒猫」。

 

怖さと美しさが錯綜する、魔的な世界が展開されます。

 

「藪の中の黒猫」

 

1968年公開。

監督:新藤兼人

出演:中村吉右衛門、乙羽信子、佐藤慶、太地喜和子

 

内容:民間伝承話に着想を得て新藤兼人が脚色し、同時に“性”の主題を追及したホラー映画。平安中期の京都、4人の落ち武者に暴行され家ごと焼かれた母娘が妖怪となって次々と復讐していく。TVドラマ『白い巨塔』の太地喜和子の妖艶な化け猫ぶりが見所(引用元:「キネマ旬報社」データベース)。

 

最後まで、充分に楽しめました。

 

しかし、贅沢かもしれませんが、鑑賞後、少し物足りなさが残りました。

 

その物足りなさとは何でしょうか?

 

物足りなさの理由は2つあるように思われます。

 

1つ目は、もっと耽美的につくってほしいと感じたのです。

 

もちろん、新藤兼人は耽美派ではないから、そういうものを望んではいけないのかもしれないけれども、もしも、この映画がもっと美的に仕上がっていたとしたら、名作映画として、もっと声高に語り継がれる気がしました。

 

2つ目は、シナリオがやや弱い。

 

最後、男が狂うのですが、狂った動機が弱い気がしました。化猫が男を襲う必然性も薄いと思います。

 

ですから、ラストシーンまでの迫力あるシーンへの感情移入が、今ひとつできなかったのです。

 

ただ、見ごたえのある場面は多数ありますので、繰り返しになりますが、最後まで、退屈するようなことは決してありません。

 

新藤監督の異色作ですが、語り継がれてゆくべきというか、忘れ去られるには惜しい秀作というべきでしょうか。