川島雄三の映画はどの作品を見ても、その類まれな才能に驚かされます。
いろんなジャンルの映画を撮った監督ですが、一つとして凡作はありません。何かしら、必ず光るものを示してくれるのです。
今回鑑賞した「わが町」。主演が辰巳柳太郎ということで少し腰が引けました。それほど好きな役者ではないからです。
しかし、実際に映画が動き出すと、時間を忘れて画面に見入ってしまいました。
「わが町」は1956年に公開された日本映画。監督は川島雄三。原作は織田作之助の小説。
大阪の下町が舞台。貧しい暮らしが生々しく描写され、見ている方が気持ちが沈みがちになります。
しかし、南田洋子が成人し、三橋達也と再会するシーンでガラッと映画の雰囲気が変わります。
都会の風景が、まぶしいほどに美しい。
違う時代に突入し、この後は、南田洋子の息をのむような美しさと、老いた辰巳柳太郎との対比が鮮やかです。
最後は眠るように焦点した辰巳柳太郎。そのラストシーンには、辰巳柳太郎の小粋なセンスが感じられました。
人情ものの映画がですが、単なるベタな人情映画で終わっていないところが、さすがに川島雄三です。
ワンカットワンカットの質が高く、見ごたえ充分。傑作と呼ぶような作品ですが、映画の面白さが凝縮されたいました。