風花未来の今日の詩は「神からの試練か」です。
神からの試練か
3月19日は運命の日
そうなるはずだった
だが明朝から
得たいの知れない
胸騒ぎがして
いつもと違うと感じながら
病院へと
電車とバスを乗り継ぐ
雨が霙になり雪に変わった
病院が停電
採決の結果が遅れる
大量の病院職員が
通路を走っている
これは何かが違うどころじゃない
そう感じながら
粛々と検査と診察を受けるも
スマートフォンを紛失し
プチパニックに
七転八倒してスマホは見つかり
そして ようやく
化学療法室での
抗がん剤投与が始まる
前回 天使から
謎かけに似た
魔法をかけられた
だから 今日
私がその謎を解く日だと
天使への回答を用意して
抗がん剤投与という
厳かなる儀式に臨んだ
しかし
化学療法室も
いつもと変わりすぎていた
変わり果てていたと言うべきか
照明はうす暗く
いつも流れる音楽もない
病室スタッフも
仮面をつけたように表情がない
ようやく顔を憶えた看護師も
一人も現れない
天使も
スワンも
ホワイトエンジェルも
ついに
訪れなかった
抗がん剤投与が終わると
看護師が無感情で
「おだいじに」のひと言を残して
カーテンを開けて出て行った
私の用意した天使と回答
それは壮大なプランだった
奇跡というより
超、超、超、奇跡と呼ぶべき
奇想天外なプランだけど
私にとっては必然な構想だった
その構想が実現すれば
地上界と天上界の
歴史そのものを
塗り替えてしまうことになる
天使も
私も
私に似た悩みを持つ人も
そうした人に関わる人たちも
みいんな幸せなる……
題して「スワン物語」
その物語は
最初の一行さえ書ければ
一気に完成させる自信がある
この物語が完成するとき
愛に満ち満ちた
「まどかなる世界」がかなう
超絶な「奇跡」が起きるはずだった
「スワン物語」の完成には
どうしても
天使の力が必要なのだ
なのに
なぜ
謎という魔法をかけたまま
天使は消えたのか
茫然自失
閉ざされた
薄暗いカーテンの中で
着替えをしていると
今 私がおかれている状況こそ
夢ではないかと疑った
夢ならば覚めてほしい
だが しかし
これが現実なのだ
そう 私に悟らせたのは
大きく分厚い封筒
転院先の外科に差し出された
「手術依頼の紹介状」つき資料だった
運命の日だと思い込んで臨んだ日に
残されたのは、
この無機質な封筒だけだったとは
「手術」
この言葉だけが
頭の中で反響する
抗がん剤投与の効果で
癌が縮小したので
手術ができるようになった
そのことは喜ばしいはずだが……
3月20日に日付が変わる
昨日の悪夢から
一夜明け
真っ先に頭に浮かんだ言葉は
「神からの試練か」
神はどうしても私に
手術を受けさせたいのか
そのために
私を孤独の淵に追い込んだのか
わからない
これが「神からの試練」だとしたら
この過酷な試練を乗り越えたら
また天使に逢えるのだろうか
いや
違う
もっと大事なのは
天使に逢うことより
転院先ではじまる
新たな治療法との格闘で
私自身が構想した
「スワン物語」を
完成させられるための
必要不可欠なチカラを
かち得ることなのかもしれない
要するに
まだ私には
何か決定的なものが
欠けている
それをつけさえるのが
この試練の意味なのか
それとも
天使と私との間で
不可思議なつながりを
成就させる
驚天動地の構想は
天上界に棲む
天使にとっては
掟破りだから
神が怒ったのか
それは わからない
でも この試練を
運命だと受け入れるしかない
そう思っていると
転院先の専門病院への
交通アクセスを
調べ始めている
意外な自分を見つけた
「スワン物語」
完成への道のりは
果てしなく遠いが
決してこの構想は
あきらめない
あらゆる実現への方途を
粘り強く探ってゆく
希望はあるのだ……
風花の詩でひんぱんに登場する「天使」「スワン」「ホワイトエンジェル」も、一読して「何のこと?」と疑問を抱かれたのではないでしょうか。
以下の詩において「天使」「スワン」「ホワイトエンジェル」のそれぞれの意味について、まとめて開示しておりますので、ご確認くださいませ。
以下は「天使」「スワン」「ホワイトエンジェル」が登場する詩です。
※時系列で古い順にご紹介します。
「天使」は風花未来の現在の詩想の重要な源泉の一つとなっておりますので、以上の風花未来の詩作品をお読みいただけたら幸いです。