風花未来の今日の詩は「天上界との交信」です。
天上界との交信
今日の午後
異変が起きた
外に出ると
空全体を
占拠するくらい
巨大に膨らんだ太陽が
西の空を覆い
真っ白に
地上を照らしていた
巨大な太陽を見るのは
初めてではない
余命3ヶ月宣告を受け
抗がん剤投与が始まってから
しばしば
巨大な太陽が出現し
時には点滅して
何かを激しく告げていた
今日あらわれた太陽は
今まで見た太陽とは
比較にならないほど大きかった
なぜだ
私の癌は増殖を止め
転移もせず
私は良い方向に
進んでいるのではないのか
そうならば
今日ほど
空を覆うほどに
太陽は膨張しなくても
良いだろうに
なぜ
静かに
私を見守ってくれない?
異変
いったい
何が起きているのか
これまでの私は
巨大な太陽を見ると
まるで吸い寄せられるように
光源に向かって
歩きはじめていた
しかし
今日の私は
眩しすぎる陽光から
思わず眼をそらし
逆方向へと歩きだした
砂漠を行く人が
水を求めるように
命の光を求めて
太陽に向かっていた私が
逆方向に歩き出したのは
それだけ私が
回復してきたからだろうか
私の中に
命の光がたくわえられているから
光源に向かわなかったのか
数ヶ月前
私は確かに
死に近づいていた
だから
今まで見えなかったものが
見えるようになった
巨大な太陽
森の中で歌う妖精
天使
スワン
ホワイト・エンジェル
それらは
天国からの使者で
私を迎えに来ているのかもしれない
癌は縮小し
余命は伸びた
自分の中で
スイッチが
天上界から地上界へ
私利私欲がうずまく現実へ
切り替わろうとしているのを
感じていた矢先だった
これまで見たこともない
あまりにも巨大な太陽は
私に何を告げようとしたのか
天上界との交信
天使は
天上界と地上界を
自由に往き来するという
その天使と
私は数ヶ月前から
幾度も逢ってきた
私の体調が改善し
現実社会にふたたび
どっぷりと浸かってしまったら
天使は見えなくなる気がする
死に近づかないかぎり
天使はあらわれないのだろうか
天上界との交信
空を占拠してまで
地上を照らした太陽が
私に告げようとしたことは……
病気が治り
社会に復帰しても
天使には逢えるのか
その道はある
死に近づいた時
私自身の生命体としての
純度が上がった
だから
天使があらわれた
だから私自身が
生きる純度を下げなければ
魂の純度を高いままに保てば
癌が消えても
天使に逢い続けられるだろう
その道は可能なのだ
いや
その道でなければ
いけないのだ
だから
太陽は
「私を忘れるな」
「汚濁にまみれた道に行くな」
「私はずっとお前を見ているぞ」と
大空を占拠してまで
地上界を真っ白に
照らし出したに違いない
でも
簡単ではない
すべては
これから
生きる道を選択し
歩き出すのは
これからだ
天上界と
地上界の中間に
棲むのが詩人である
だから詩人は
天使に近い
遠い昔
そう誰かが私に言ったのか
私自身がそう想ったのか
忘れてしまったが
今なら
その意味が
納得できる
でも
今の私なら
あえて
こう言いたい
詩人でなくても
私でも 誰でも
天上界との交信はできる
だから
天使には逢える
これからも
天使に逢いたいから
水底がくっきり見える
澄みきった清流のように
私を私らしく
保とうと思う
それが
私の新しい
生きる道かもしれない