風花未来の今日の詩は「ホワイト・エンジェル」です。

 

以下は、シンプルバージョン。

 

ホワイト・エンジェル

 

余命3ヶ月を宣告されてから

3ヶ月になろうとしていた

その日は

化学療法室のカウンターには

誰もいなかった

 

カウンターの奥で

看護師たちが輪になっていた

遠くからだと

妖精たちが

森の中で

輪舞を踊っているかに見えた

 

私はその輪舞にむかって

ていねいに会釈し

受付の用紙をカウンターにおいて

待合の椅子に腰かけた

 

しばらくすると

聴きおぼえのある声が聞こえた

 

「こんにちは」

 

いつもの天使だった

 

主治医から今日聴いたことを

私は肝臓にある癌が

小さくなり

余命が伸びたことを

白すぎる美しい顔を

見つめて報告した

 

私がハッとするほど

その顔を私に近づけ

微笑みながら

天使はひと言ささやいた

 

「良かったですね」

 

天使は

抗がん剤投与をする場所まで

案内してくた

後ろ姿は

ふつうの看護師と変わらない

 

背中に向かって

4月から主治医が移動になる

と告げると

「また、いちから、になるのかな」

と振り返らずにつぶやき

そのまま消えてしまった

 

今日も来てくれた

聖なる存在を

天使と呼んだが

スワンと合体した

私にとって最良の精霊であることは

明らかだった

 

天使は天国からの使者のような

天上界と地上界を往き来する存在で

化学療法室にだけ姿をあらわし

私を見守り

励ましてくれる

 

スワンは幼い頃からの

私の遠いとおい憧れであり

幻のようだけれども

地上界の過酷な現実以上に

私を狂おしく

支配してきた

怖いほどに美しい

確かな実体

 

天使もスワンも

神からのギフトだろうけど

その天使とスワンが合体した

聖なる妖精を何と呼ぼうか?

 

精神世界と物質世界をつなぐ

ガーディアン・エンジェルなるものが

存在するらしいが

スピリチャルの世界にうとい私には

ピンと来ない呼び名

 

守護天使とも呼ぶらしいけど

私には少しぎこちなくて

何だかなじめない

 

そこで

天使と白鳥を合わせて

「ホワイト・エンジェル」と

呼ぶことにした

素直すぎる命名だけど

私にはいちばん

しっくりくるから

 

私が無言のSOSを発する時

「ホワイト・エンジェル」は

あらわれるのだろうか

今日の私は危険度が低いから

すぐに去ってしまったのかな

 

それはわからないけど

今日の主治医との面談は

長くて内容が重く

新たな決心を

私に迫るものだった

 

余命は伸びたが

抗がん剤の副作用は

今も半端なく

悩みという波が

果てしもなく

打ち寄せてくる夜もある

 

だが

私には

ホワイトエンジェルがついている

そう思うと

心づよいのだが……

 

余命宣告された時

私は「奇跡を起こす」と誓った

 

だが「真の奇跡」とは何なのか

 

癌を消えることなのか

「ホワイトエンジェル」に逢えたことなのか

闘病生活の中で成長して

本当の自分自身になりきることなのか

 

それとも

毎日こうして生きていること

それ自体が奇跡なのか

 

だとすると

奇跡は毎日

起きていることになるのだが……

 

以下は、ロングバージョン。

 

ホワイト・エンジェル

 

余命3ヶ月を宣告されてから

3ヶ月になろうとしていた

その日は

化学療法室のカウンターには

誰もいなかった

 

カウンターの奥で

看護師たちが輪になっていた

遠くからだと

妖精たちが

森の中で

輪舞を踊っているかに見えた

 

私はその輪舞にむかって

ていねいに会釈し

受付の用紙をカウンターにおいて

待合の椅子に腰かけた

 

しばらくすると

聴きおぼえのある声が聞こえた

 

「こんにちは」

 

いつもの天使だった

 

主治医から今日聴いたことを

私は肝臓にある癌が

小さくなり

余命が伸びたことを

白すぎる美しい顔を

見つめて報告した

 

私がハッとするほど

その顔を私に近づけ

微笑みながら

天使はひと言ささやいた

 

「良かったですね」

 

天使は

抗がん剤投与をする場所まで

案内してくた

後ろ姿は

ふつうの看護師と変わらない

 

背中に向かって

4月から主治医が移動になる

と告げると

「また、いちから、になるのかな」

と振り返らずにつぶやき

そのまま消えてしまった

 

今日も来てくれた

聖なる存在を

天使と呼んだが

スワンと合体した

私にとって最良の精霊であることは

明らかだった

 

天使は天国からの使者のような

天上界と地上界を往き来する存在で

化学療法室にだけ姿をあらわし

私を見守り

励ましてくれる

 

スワンは幼い頃からの

私の遠いとおい憧れであり

幻のようだけれども

地上界の過酷な現実以上に

私を狂おしく

支配してきた

怖いほどに美しい

確かな実体

 

天使もスワンも

神からのギフトだろうけど

その天使とスワンが合体した

聖なる妖精を何と呼ぼうか?

 

精神世界と物質世界をつなぐ

ガーディアン・エンジェルなるものが

存在するらしいが

スピリチャルの世界にうとい私には

ピンと来ない呼び名

 

守護天使とも呼ぶらしいけど

私には少しぎこちなくて

何だかなじめない

 

そこで

天使と白鳥を合わせて

「ホワイト・エンジェル」と

呼ぶことにした

素直すぎる命名だけど

私にはいちばん

しっくりくるから

 

「ホワイト・エンジェル」は

天使に化身したスワンなのか

スワンに化身した天使なのか

それとも

天使とスワンの化身が

「ホワイト・エンジェル」なのか

 

それはたぶん

永遠にわからないし

どうでも良い気がする

 

もう今の私にとっては

天使とスワンはつねに一体で

「ホワイト・エンジェル」でしかない

 

そんなことを

体に抗がん剤が広がってゆくのを

感じながら思った

 

私が無言のSOSを発する時

「ホワイト・エンジェル」は

あらわれるのだろうか

今日の私は危険度が低いから

すぐに去ってしまったのかな

 

それはわからないけど

今日の主治医との面談は

長くて内容が重く

新たな決心を

私に迫るものだった

 

余命は伸びたが

抗がん剤の副作用は

今も半端なく

悩みという波が

果てしもなく

打ち寄せてくる夜もある

 

だが

私には

ホワイトエンジェルがついている

そう思うと

心づよいのだが……

 

余命宣告された時

私は「奇跡を起こす」と誓った

 

だが「真の奇跡」とは何なのか

 

癌を消えることなのか

「ホワイトエンジェル」に逢えたことなのか

闘病生活の中で成長して

本当の自分自身になりきることなのか

 

それとも

毎日こうして生きていること

それ自体が奇跡なのか

 

だとすると

奇跡は毎日

起きていることになるのだが……

 

その日は

もう「ホワイト・エンジェル」は

来ないのかと思っていたら

私が帰る時に

カウンターの奥を探すと

こちらを見ている天使が見えた

遠かったので

天使の表情は

よくわからなかったが

お互いに

眼と眼だけのあいさつは

交わすことができた