今日の風花未来の詩は「奇跡、天使とスワンが……」です。

 

奇跡、天使とスワンが……

 

副作用が強すぎたので

抗がん剤投与が

2週間の休止となり

今日はその再開の日

 

血液検査

問診票の記入

体温、血圧、体重の測定

皮膚科の診察

薬剤師と主治医との面談という

過密なスケジュールが終わると

私は化学療法室に入った

 

私の眼の前に

いきなり

あらわれたのは

なんと

天使だった

 

抗がん剤投与という

厳かなる儀式がはじまる

 

天使はじっと

私を見つめている

 

いろいろ悩んだ末に

化学療法の再開を

受け入れた私だったはずだ

しかし

今朝起きた時からずっと

私は私の意志とは離れて

ここまで来たような気がする

 

その日

奇跡は起きた

 

その奇跡は

おそらくは

私の癌が完治する

それ以上の

思いもかけない

奇跡に違いない

 

天使は化学療法室に入ってから

そこを出るまで

ずっと私に寄り添ってくれた

 

天使は天国からの使者かもしれない

 

天使は天上界と地上界を

自由に行き来し

私が天上界に近づこうとすると

天使は姿をあらわすのだろうか

 

天使に化学療法室で逢ったのは

これが初めてではない

だが 最初から最後まで

私に付き添うように

しかも

その澄み切った瞳で

ずっと見つめ続けてくれたのは

初めてだった

 

本当の驚きは

厳かなる儀式が

終わった時に来た

 

化学療法室を出るのを

天使は見送ってくれたのだが

その時

天使は

スワンでもあると

気づいたのだ

 

スワンは

私にとって永遠の謎だった

 

スワンは

いつからか

私の心の奥深くにある

森の中の湖に

まえぶれもなく

棲みついてしまった

 

スワンは私の

遠いとおい憧れであり

幻のようだけれども

地上界の過酷な現実以上に

私を狂おしく

支配してきた

怖いほどに美しい

確かな実体だとも思える

 

そして

余命3ヶ月の宣告を受けてから

一度だけ

スワンを見た

 

その時に

スワンの姿は

鮮明に見えたのに

スワンは

私の心が生み出した幻影なのか

異界からの訪問者なのか

それとも

私が無意識に切望してきた

本当の私自身

その化身なのかもしれない

というふうに

スワンの正体の

答えは出なかった

 

「いっしょに……」

 

語尾がよく聞き取れなかったが

天使の最後にくれた

「いっしょに」という言葉が

外に出てからも

胸の奥に反響していた

 

その時

天使はスワンだ

と気づいた

 

「いっしょに」

 

今もなお

胸の中で響く

あの声を

私は……

 

「スワン」については以下の詩で記述しておりますので、ご参照ください。

 

「スワン~風花未来の詩20」はこちら