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今日の風花未来の詩は「胡蝶伝説」です。「こちょうでんせつ」と読みます。
胡蝶伝説
美しい蝶々が
群れをなして乱舞する
森のことを
村人は
「胡蝶の森」と呼び
蝶々のことを
「幻の胡蝶」として
昔から
語り継いできた
森の奥深くに
幻の胡蝶は
群生しているらしい
しかし
地図を指さして
ここに行けば
必ず蝶の群舞を見られると
言い切れる者は
一人もいなかった
幻の胡蝶には
さまざまな噂が
伝承民話のように
語り継がれてきている
紅葉黄葉に燃える季節に
蝶の森に入ると
無数の木の葉が
にわかに 散り始め
舞い散る木の葉は
蝶に変貌し
渦を巻きながら
空へと舞い上がって行った
幻の胡蝶の群れは
空高く舞い上がり
渡り鳥のように
天空を渡ってゆくのを
見た者がいる
舞い狂う 蝶々たちは
余りにも美しすぎて
見た者は
眼がつぶれてしまう
幻の胡蝶は
毒の粉をまき散らすので
胡蝶の舞いに近づき
蝶に囲まれたものは
毒を吸って死んでしまう
実際に
胡蝶の乱舞を見たという
目撃者がほとんどいないのは
幻の胡蝶を見た者は
生きては帰れないからだ
幻の胡蝶を見た者は
色とりどりの蝶たちに
くるまれて
蝶とともに舞い上がり
昇天してしまう
このような数々の噂が
語り継がれる
「幻の胡蝶」が棲む
「胡蝶の森」があるという
その村のことを
紅葉黄葉に燃える
大きな樹々を眺めながら
わたしは
想い描いている
いつか
わたしも
幻の胡蝶を見たいのだが
見てしまえば
わたしが今ここに立っている
この場所には
帰ってこれないのだろうか
風花未来の詩「胡蝶伝説」の客観的な評価
風花未来さんの詩「胡蝶伝説」は、幻想的で耽美な世界観を持ちながら、どこか「生と死」の境界線を感じさせる深みのある作品です。
以下に、いくつかの視点からこの詩を評価・鑑賞します。
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鮮烈な色彩と視覚的イメージ
まず目を引くのは、色彩の鮮やかさと動的な描写です。
「紅葉黄葉に燃える季節」に、舞い落ちる木の葉が「にわかに蝶に変貌し、渦を巻きながら空へと舞い上がって行く」という表現は、非常に映像的です。
植物が無機質な「死」へと向かう秋の光景が、生命力あふれる蝶へと転換される描写には、生命の循環(輪廻)を感じさせる美しさがあります。
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「美」と「死」の二面性
この詩の独創的な点は、蝶をただ美しい存在として描くのではなく、「毒」や「死」の象徴としても描いている点です。
- 「美しすぎて見た者は眼がつぶれてしまう」
- 「毒を吸って死んでしまう」
- 「生きては帰れない」
これらのフレーズは、究極の美が人を破滅させるという、古来からの「耽美主義」的な思想に通じています。
美しすぎるものに触れることは、現世との訣別を意味するという危うい魅力が、詩全体に緊張感を与えています。
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「昇天」への眼差し
詩の後半で語られる「蝶にくるまれて昇天してしまう」という噂は、死を単なる終わりではなく、美しき世界への「旅立ち」や「融合」として捉えているように見えます。
特に作者・風花未来さんの背景(闘病や命への眼差し)を念頭に置くと、この「帰ってこれない場所」への好奇心と不安は、単なる想像上の物語を超えた、切実な死生観の表れとして響きます。
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構成と読後感
伝説という形を借りて「噂」を積み重ねていくスタイルは、読み手を徐々に森の奥深くへと誘い込む効果があります。
最後の一節、「見てしまえば/わたしが今ここに立っている/この場所には/帰ってこれないのだろうか」という問いかけは、読者にも「もし目の前にその絶景が現れたら、自分ならどうするか」という余韻を残します。
日常(この場所)への愛着と、未知の絶対的な美への憧憬が揺れ動く幕切れは非常に印象的です。
総評
この作品は、「自然の神秘」と「死への覚悟や憧れ」を、蝶という古典的なモチーフを用いて現代的に昇華させた秀作と言えます。
優しく静かな語り口の中に、抗いがたい運命への畏怖が込められており、読む人の心に静かな波紋を広げる力を持っています。


