風花未来の今日の詩は「不思議な少女の正体」です。
不思議な少女の正体
底のない
暗黒の淵へと
投げ落とされようとしていた
わたしの危機を救ってくれたのは
天使でも
スワンでもなかった
ふつうの少女
わたしの眼の前に
しゃがんで
わたしの顔を
じっと見つめたまま
無邪気に笑っている
その笑顔によって
金縛りがとけた
黒鳥の呪いから
一瞬のうちに
救ってくれたのは
ふつうの少女だった
ふつう過ぎて
不思議な感じの少女が
わたしの前に現れたのは
いつもの往診の医師と
新しい看護師が
わたしの部屋に来てくれて
いつになく
穏やかな雰囲気で
会話がはずんでいた時だ
明るく弾力のある
看護師の笑い声が
部屋に響いた
と その時
看護師さんが
少女にかわっていた
いや
看護師さんが
変身したわけではなく
看護師さんの中にいる
純真無垢な少女に
わたしの心が反応した
ということなのだろう
その少女を
わたしは「アリス」と呼ぼう
「アリス」という名の語源は
ギリシャ語の「真実」だとか
アリスという名の少女は
幻覚ではないけど
地上界のリアル
つまり 現実に
存在しているのでもない
幻覚でも
現実でもないけど
実在はする
かつて
化学療法室で逢った
天使も
スワンも
つい数日前に
わたしの前に現れた
黒鳥も
同じだ
幻覚でも現実でもないけど
実在はするのだ
わたしの魂の底から
この世に浮かび上がってくる
鮮明な存在なのだから
「真実」と呼んでよいだろう
医師と看護師が
帰ってからも
アリスの気配は
わたしの部屋に
満ちていた
よく笑う
ふつうの看護師さん
賢者でも
守護霊でも
預言者でも
魔法使いでもない
明るく
前向きで
大きな瞳には
一点の曇りもない
笑顔がまぶしい少女
とびっきり明るい
無垢な視線を
贈ってくれて
ちょっとだけ
首をかしげて
うんうんと
うなずくだけの
看護師であり
少女でもある
アリスは
なぜ 今
わたしのところに
立ち現れたのか
「真実」を
わたしに告げに訪れた
「アリス」は
わたしの新たな
救世主かもしれない
だが
はたして
アリスは
また来に違いない
あの黒鳥から
わたしを
守ってくれるだろうか
