最近、入院と通院が続いており、その中で「抗がん剤投与」という新たな治療法が開始され、いろいろと思うことが多い。

 

そこで、ふと想い浮かんだのが「人生経験」という言葉だ。

つくづく、自分の人生の特殊さを思うのである。

 

それにしても、病院には素晴らしい人がいる、そのことに驚かされる。

 

できたのタイトルは「奇跡」だったが「澄んだ瞳」に変更。

 

澄んだ瞳

 

わたしの人生をふりかえると

半分以上が入院生活だった

そんな気がするほど

何度も重篤な病気で倒れてきた

これまで、5回ほど死にかけたが

そのたびにギリギリ窮地を脱してきたけれど

今度ばかりは……

 

体の中に入ってくる抗がん剤を

じわじわと感じながら

ふと「私には人生経験がない」と思った

 

サラリーマン生活はわずか4年間のみ

未婚で子供もいない

恋愛経験もかなり少ないほうだと思う

 

この数か月をふりかえっても

リアルで会話したのは

病院のスタッフくらいである

 

世間なみの人生経験は

ほとんどなく

このまま終わるのか

 

化学療法室は生き死に関わる場所だから

スタッフと患者の会話や行動は重い

気づくと

迫真の人生ドラマを

全員で織り上げている

 

「余命3ヶ月宣告」を受けてから2週間

 

昨日

化学療法室で起きたこと

 

抗がん剤投与に

希望が持てない自分がいた

しかし

一人の薬剤師だけが

異質の言葉を私に投げかけた

 

他のスタッフは副作用の説明にだけ

長い時間を割いていた

患者にぬかよろこびをさせないために

期待を抱く余地を極小にするかのように

前途を暗く閉ざす会話がえんえんに続いてきた

ましてや

抗がん剤の意味が「延命だけ」

それでは気が重くなるしかない

 

私の眼を

明るい瞳で正視する

若い薬剤師にむかって

私は大真面目にこう言った

 

「笑われるかもしれませんが

わたしは奇跡を起こそうと思って

この治療を受けようとしているんです

そういう治療の受け方は間違っていますか」

 

すると

笑顔になった薬剤師は

即座にこたえたのだ

 

「奇跡を、起こしましょ」

 

私が思わず

「え!?」と反応すると

澄み切った表情の薬剤師は

きっぱり言い切った

 

「いっしょに、奇跡を起こしましょう」

 

この昨日のことを

貴重な人生経験になった

とは言うつもりはない

 

ただ

「生きる!」

と決めた

 

昨日

化学療法室で

澄んだ瞳の人がくれた

明るい光が

今日の私もある

 

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