風花未来の今日の詩は「ひと月で10歳も、年を取ってしまった本当の話」です。
ひと月で10歳も年を取ってしまった
たぶん この話は
誰にも 理解されたり
信じてもらえたりしないだろう
狂っているのかと
敬遠されてしまうかもしれない
しかし 今
ここで語っておかないと
実際に起きた事件
その生々しい記憶が
遠いかなたに
消し去ってしまうのが怖いのだ
だから こうして
語りはじめている
それは 先月と先々月
退院して2ヶ月間のこと
ひと月で10歳も
年を取ってしまった
私自身の体験談である
ひと月が10年くらいに感じた
長く 苦しく 濃密な時間
それが2ヶ月間続いたから
わたしは ふた月で
20歳も 年を取ってしまったことになる
友人は その2ヶ月間のわたしを見て
「妄想と狂気にとりつかれている」
と真剣に忠告してくれた
わたし自身に
その2ヶ月間で
何が起きていたのか
ようやく
自分で気づくことができた
だが それを説明するのは
むずかし過ぎる
ひと言でいうなら
それは「魂の大事件」なのだが……
「マグマは地球の最深部に眠っている」
との説がある
2ヶ月間も続いた
「妄想と狂気」の台風は
わたしの魂の最深部に眠っていた
生命エネルギーが
大噴火したから起きたのだ
無意識のいちばん深いところから
爆発した魂のマグマは
ばく大な熱量を放出した
そして それは
嵐となり
竜巻となって荒れ狂った
生と死の淵を
さまよっていた魂を
支えてくれたのは
聖霊たちだった
なぜ
どうして
そんなあり得ないことが
実際に起きたのか
癌の大手術が
引き金になったのは間違いない
12時間半にも及んだ
大手術が生み出した
後遺症のかずかず
せん妄
十二指腸潰瘍
腹水貯留
肝性脳症
70日間もの
長すぎた入院生活の
影響も大きいだろう
身体は極限ちかくまで
衰弱しきっているのに
魂の核だけが大爆裂した
核爆弾の実験によって生まれた
恐怖の生物が暴れ狂うのにも似て
それが
2ヶ月間も 続いたのだから
ひと月が10年と感じても
何の不思議もない
いや
一生分のエネルギーを
魂のコアは
放出してしまった気さえする
だとしたら
わたしの魂は
これから どうなるのか
それは わからない
しかし もっと
大事なことは
わたしの魂が
自らの崩壊ギリギリで
表現したことは
それ自体は病気ではなく
深い真実を伝えていることだ
偉大なロシアの作家が書いた
「白痴」にある
聖なる狂気を
わたしの魂の爆裂は
伝えていたと信じたい
わたしの魂の叫びは
決して わたし個人
だけの問題ではなく
誰もが魂の奥底では
強く求めている
人生で最も重要な命題の
まん真ん中を
稲光となって
射貫いているのだ
その命題については
今 ここでは説明できないので
別の確かな
「形あるもの」で伝えたい
形にするには
もう一度
魂の大爆裂を起こし
しかも それを
冷静かつ客観的に
再構成する
能力と耐力が
不可欠となる
ここで 大問題
凡人に生まれついた
わたしごときは
「妄想と狂気」に
取りつかれないかぎり
人生の深淵を
自分の眼で見て
心に刻印することは
不可能なのではという
そもそもの問題
いや
わたしは
もう すでに
知ってしまった
自分の意志で
大噴火のスイッチは
入れられる
あとは わたしに起きた
魂の大事件を
確固たる「形あるもの」に
できるかどうかだ
それを実現するには
魂の大噴火に耐えられる
身体をつくってゆくこと
そこから
はじめなければ
いけないのだが……
「形あるもの」にするには
膨大な時間が必要なのに
わたしには もう
多くの時間は残されていない