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「生涯一書生」は吉川英治が愛した美しい日本語


生涯一書生」という言葉をご存知でしょうか。「しょうがいいちしょせい」と読みます。「しょせい」という言葉は、今では日常生活では使いませんね。現代ふうに他の言葉に置き換えるならば「学生」がいちばん近いでしょうか。要するに「何かを一心に学んでいる人」くらいの意味でとらえれば妥当かと思います。

もともとは仏教の言葉ですが、作家や文化人の中には、この「生涯一書生」という言葉を愛した人がいまして、その一人が、小説「宮本武蔵」や「親鸞」などで有名な吉川英治です。

扇谷正造に「吉川英治氏におそわったこと」という名著があります。その中に「生涯一書生」という短文があるのですが、それがまた素晴らしい。

といっても、誰も、その本を買うとか、図書館で読むなどといういことはしてくれないでしょう。ですから、少しだけ「生涯一書生」という言葉にまつわるエピソードをお話しします。

昭和35年11月3日、吉川英治は文化勲章を受けられました。

吉川英治ははじめ、文化勲章を受けることを拒んでいたそうです。日本で最高の評論家といわれる小林秀雄が、吉川英治を説得して、ようやく吉川英治は勲章を受けることを決めたと伝えられています。

当日、吉川英治が色紙に書いた句をご紹介しましょう。

菊の日

もう一度

紺かすり 着てみたし

この句は、今は亡き母上への報告であると、扇谷正造は解釈しています。

お母さん、英治は勉強した甲斐があって、ごほう美をもらいました。さあ、これが、勲章です。タチバナの花をあしらったもののようです。お母さん、さあ…」と扇谷さんは、句意を生き生きと解説しているのです。

そして、もう一つの解釈も興味深い。

「紺かすり」を「書生」という意味にとると、吉川英治が好んで書いた「生涯一書生」という気持ちを、晴れの日に、あえて確認し、生涯をとおしての決意表明をしたことになる……そう扇谷さんは言うのであります。

自分は、今日、文化勲章をいただいた。けれども、今後も文学に対しては、一書生としてはげみます」という気持ちが込められていると扇谷さんは主張しているのですね。

私は宗教に無縁の人間ですが、最近、仏教には良い言葉があると感じます。また、昔の日本人の作家は、心に沁みる言葉を遺しているので、そういう言葉を大切に味わってゆきたいと思うのです。

と同時に、西洋人の書いた自己啓発書や成功哲学には、どうしても馴染めないものを感じ、閉口する時があります。

四季の変化が激しい気候風土。狭い国土に人がひしめき合って暮らしている日本という国に住む日本人が、西洋哲学をそのまま活用できるはずがありません。

「生涯一書生」などという、味わい深く美しい言葉が西洋にあるでしょうか。

日本人には日本人に合った思想があります。その思想を表すのが言葉です。これからも、日本人らしい心を失わないためにも、美しい日本語を紹介してゆきたいと思います。

美しい日本語で書かれた作品をまとめました。

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