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アマゾンプライムで、松本清張ドラマ「霧の旗」を観た。
主演は堀北真希。
⇒堀北真希主演バージョンの「霧の旗」はこちらから視聴可能です
松本清張の同名小説を原作として映像化された作品を、これで私は3作鑑賞したことになる。
倍賞千恵子、山口百恵、そして、堀北真希。
驚いたのは、堀北真希バージョンのレベルの高さである。
ひょっとすると、今までで一番良かったかもしれないと感じたくらいだ。
倍賞千恵子が主演した「霧の旗」も良かったのだが、堀北真希バージョンも、なかなかの力作である。
堀北真希の演技力も、侮れない、と思った。
松本清張ドラマの新作には全く期待していないのだが、今回は想定外の面白さに舌を巻いた次第である。
松本清張サスペンスの傑作を現代に蘇らせた意欲作
松本清張の傑作サスペンス『霧の旗』は、無実の罪を着せられた兄を救えなかった妹が、冷酷なエリート弁護士に復讐を果たすまでを描いた物語です。
これまで幾度となく映像化されてきた本作ですが、2014年に制作されたドラマ版は、その洗練された演出と大胆なキャスティングで新たな魅力を放っています。
- 基本データ
- 作品名: テレビ朝日開局55周年記念 松本清張『霧の旗』
- 放送日: 2014年12月7日
- 原作: 松本清張「霧の旗」
- 脚本: 浅野妙子
- 演出: 藤田明二
- 主な出演者: 堀北真希(柳田桐子)、椎名桔平(大塚欽三)、木村佳乃(河野径子)、高橋克実(阿部啓一)
- 堀北真希の女優力と本バージョンの魅力
本作の最大の魅力は、何と言っても主演の堀北真希の存在感にあります。
これまで清純派としての印象が強かった彼女が、愛する兄を理不尽な形で失い、冷酷な復讐者へと変貌を遂げるヒロイン・柳田桐子を見事に演じきりました。
物語の前半、九州の田舎から上京し、すがるような思いで弁護士に助けを求める純朴な少女の姿は、彼女の従来のイメージそのものです。
しかし、兄が獄死したのち、銀座の高級クラブのホステスとして都会の闇に染まり、妖艶な「悪女」へと豹変していく過程の落差には目を見張るものがあります。
派手な感情の爆発ではなく、冷たく虚無的な視線と、静かな微笑みの裏に底知れぬ憎悪を隠し持つ演技は、彼女の女優としての新境地を開拓したと言えます。
- 他のバージョン(倍賞千恵子版・山口百恵版)との共通点と特異性
『霧の旗』の映像化において金字塔とされているのが、1965年の倍賞千恵子主演版(山田洋次監督)と、1977年の山口百恵主演版(西河克己監督)です。
- 共通点:
どの作品においても、「権力を持たない市井の弱者が、エリートの傲慢さによって絶望の淵に追いやられ、情念の炎を燃やして復讐の鬼と化す」という清張作品ならではの骨太なテーマは共通しています。
法や正義の限界に対する鋭い社会批判が根底に流れています。
- 相違点(本バージョンの特異性):
倍賞千恵子版が高度経済成長期の陰翳や泥臭い庶民のリアリティを追求し、山口百恵版がトップアイドルの持つ圧倒的なカリスマ性と「運命に翻弄される悲恋のヒロイン」という色合いを強めていたのに対し、堀北真希版は「現代のスマートなサスペンス」としての特異性を持っています。
スマートフォンの普及など現代的な背景にアップデートされているだけでなく、桐子の復讐の手口や心理戦がより冷徹で計算高く描かれています。
情念というよりも、氷のように冷たい「知的なゲーム」を仕掛ける現代のダークヒロインとしての造形が際立っているのが特徴です。
- 脇を固める実力派俳優たちの演技
ヒロインの復讐劇をより残酷に、そしてスリリングに引き立てているのが、周囲を固める共演者たちの確かな演技です。
- 椎名桔平(大塚欽三 役):
桐子に復讐されるエリート弁護士を演じた椎名桔平は、序盤では地位と名声に溺れた傲慢で嫌味な知識人を好演しています。
しかし、桐子の仕掛けた罠に絡め取られ、社会的地位もプライドも崩壊していく終盤の狼狽ぶりは見事であり、人間の脆さを生々しく表現しています。
- 木村佳乃(河野径子 役):
大塚の愛人であり、桐子の復讐のターゲットとして殺人事件の容疑者に仕立て上げられてしまう女性を演じました。
華やかなセレブから一転、理不尽な状況に追い詰められていく恐怖と絶望の演技は圧巻であり、物語に強い悲壮感をもたらしています。
- 高橋克実(阿部啓一 役):
事件を追うルポライターとして、物語の狂言回し的な役割を担います。
第三者の視点から大塚の転落と桐子の闇を見つめるジャーナリストの複雑な立ち位置を、渋みのある演技で堅実に支えています。
- 総評
2014年版の『霧の旗』は、松本清張の不朽の名作の骨格をしっかりと保ちつつ、堀北真希という女優の隠された「毒」と「妖艶さ」を引き出すことに成功した良質なサスペンスドラマです。
過去の名優たちが演じてきた柳田桐子像に、冷徹な現代性を付加した新しい解釈の作品として、非常に見応えのある仕上がりとなっています。


