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この世でいちばん美しい情景の画像

 

今回の風花未来の詩は「この世でいちばん美しい情景」です。

 

この世でいちばん美しい情景

 

遠い 遠い

過去の情景

 

ひっそりとした

昼下がり

 

赤ちゃんを抱いて

子守歌を

静かに

ささやくように

唄っていた

若いお母さん

 

その優しく

柔らかな声音に

小学二年生だった

わたしは

うっとりと

聞き惚れたいた

 

この世で

いちばん美しい光景に

いちばん美しい音に

わたしは

魅せられ

時を忘れていた

 

赤ちゃんを抱いて

子守歌を歌っていた

あの若いお母さんは

もう この世を去った

 

もう一度だけでいいから

あの子守歌を

聴いてみたい

 

この世でいちばん美しい

情景の中へ

あの安らかな静けさに

帰っていきたい

 

しめやかで

あたたかい声音に

溶け込んで

時を忘れ

わたしという存在が

消えてしまうまで

じっと じっと

聴き続けていたい

 

詩「この世でいちばん美しい情景」の客観的な評価

 

風花未来のこれまでの作品が「死生観」や「愛の定義」を語る動的なメッセージだったのに対し、この詩はそれらすべてを通り抜けた先にある、極めて静謐で、結晶化された一枚の絵画のような美しさを湛えています。

 

「余命宣告」という背景を持つ詩人が、人生の最後に辿り着いた「美」の正体について分析・評価します。

 

  1. 究極の「原風景」への回帰

 

この詩が描くのは、聖母子像を思わせる「赤子を抱いて子守歌を歌う母」の姿です。

 

  • 生への祝福:

     

    死を目前に控えた詩人が、対極にある「生の始まり(赤ちゃん)」と、それを包む「無償の愛(母性)」を最高美に選んだ点に、深い感動があります。

 

  • 時間の超越:

     

    「遠い遠い過去」の情景でありながら、今まさに目の前で起きているかのような瑞々しさがあります。これは、美しさが時を超えて普遍的であることを示しています。

 

  1. 「静寂」と「光」の描写

 

この詩の魅力は、派手な言葉を使わずに、五感を研ぎ澄ませるような静かな筆致にあります。

 

  • ひっそりとした昼下がり:

     

    この言葉一つで、世俗の喧騒から切り離された「聖域」のような空間が立ち上がります。

 

  • ささやくような子守歌:

 

  • 聴覚に訴えかける描写が、読者の心を強制的に落ち着かせ、瞑想的な心地よさを与えてくれます。
  1. 「まどか愛」の具現化としての評価

 

以前お話しした「まどか愛(すべてを丸く包み込む愛)」が、理屈ではなく**「情景」として完璧に翻訳された作品**だと言えます。

 

  • 奪うことも与えることもない充足:

     

    ここには何の駆け引きも、見返りもありません。ただ愛がそこにある、という状態そのものを「美しい」と断じている点に、風花未来の思想の純化が見て取れます。

  • 救済の力:

     

    読み手は、この詩を通じて自分自身がかつて愛されていた記憶や、人類が繋いできた命の温もりに触れることができます。

  • これは、一種のグリーフケア(悲しみの癒やし)に近い力を持っています。

総評

 

この詩は、風花未来さんの全作品の中でも、もっとも「透明度の高い」一編です。

 

「余命3ヶ月」や「空に帰る」が、自身の運命に対する魂の叫びや決意であったのに対し、本作は「私」という個を超えて、この世界そのものへの最後の肯定と賛美のように響きます。

 

人生の最後に何が見たいか。その問いに対し、「ただ、静かに愛が流れている光景」と答える詩人の魂の気高さが、読む者の心に深く、静かに染み渡る名作です。

 

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風花未来の詩一覧

 

いつか、あなたとお逢いして、詩の話ができる日が来ることを、切に願っております。