以前「間違えやすい言葉と慣用句」という記事をアップしたのですが、この問題はとても一回では書ききれませんので、今回も、少し違った視点から、考えてみることにします。

 

日本語は、皮肉なことに、間違えやすい言葉の宝庫でもあります(苦笑)。まるで、使う人を混乱させるために作られていると思いたくなる時さえあるのですね。

 

学生時代に尊敬する国語の先生に教えていただいた「正しい言葉の使い方」が、今になって揺らいできていると感じています。この「日本語の揺らぎ」について、具体例をあげてみましょう。

 

世論」という言葉があります。これを、どう読むか?

 

よろん」なのか、「せろん」なのか?

 

これについて、予備校の国語の先生に教えていただいたことを、今も鮮明に憶えています。堤先生というのですが、たぶん当時、早稲田の教授だったと思います。

 

堤先生いわく、「よろん」が正しいのです。

 

「世論」という言葉は、もともと「輿論」だった。それを漢字の数を減らすために「輿」を「世」に変えて、「世論」としたのです。

 

「輿」は「こし」とも読み、祭りの時の「お神輿(おみこし)」のことです。「お神輿をかつぐ」ことから、一般大衆の考えや意識のことを「輿論(よろん)」と言ったと先生は教えてくれました。

 

実にわかりやすい解説で、正解は、もちろん「よろん」であり、「せろん」ではないのです。「輿」は「せ」とは読みませんから。

 

ただ、やっかいなのは、「世論(よろん)」を「与論」と間違えやすいことから、「せろん」とも呼ぶようになってしまったのです。現在では、「よろん」でも「せろん」でも、どちらでも良いということになっています。

 

以下、三省堂の大辞林の説明を引用してみましょう。

 

 

せろん  【世論】

世間の大多数の人の意見。世上で行われる議論。せいろん。よろん。〔戦後の漢字制限によって「輿論(よろん)」の代わりに用いられるようになった語。「せろん」「よろん」の両方の読み方が行われている〕

 

よろん  【▼輿論/世論】

世間の大多数の人の意見。一般市民が社会や社会的問題に対してとる態度や見解。
「―に訴える」「―を喚起する」

〔「世論」と書くときは「せろん」と読む場合が多い〕

 

私の場合は、学生時代に受けた講義の影響が今も強く「世論」を「せろん」とは、読めないでいます。「世論調査」は「せろんちょうさ」と読む人も多いと思うのですが、個人的には「よろん」で通しているのです。

 

言葉が生まれるには、由来があるもの。しかし、時代を経るにつれて、その由来とは離れて使われるようになる言葉もあるのです。それも言葉の運命であり、受け入れるしかない場合もあります。