ガルシア=マルケスとの出逢いは、私にとってドストエフスキー以来の大事件だった。

 

この大事件からかなりの年月が流れているのに、いまだに私の中で事後処理が完了していない。

 

ガルシア=マルケスの小説「百年の孤独」について、メモしておきたい。あの事件を単なる熱病に終わらせたくないから。

 

百年の孤独 [ ガブリエル・ガルシア・マルケス ]

 

●誤読を恐れていたのでは、この小説は読めない。

●場面(シーン)ではなく、説話で語る。語る時間が長すぎて、シーンで描いていたら、それこそ馬鹿長い小説になってしまうからだ。

●そんなに長い小説ではない。単行本で422ページしかない。でも、100ページくらいは縮められそうだ。あの同質の短編集「エレンディラ」があるのだから。

●私はマルケスのいわゆる魔術的リアリスムの精髄は、読者を「体が宙に浮くような気分」にさせることにあると思っていたが、この作品は重すぎて、なかなか飛べない。息苦しささえ覚える時がある。だとしたら、私の求めている小説ではないということになってしまう。いや、たぶん作者は私を裏切らないだろう。

●マルケス教の信者になるつもりか。そうかもしれない。日頃の閉塞感から逃れたくて、この小説に食らいついている。あるいは、しがみついている。宗教、哲学、政治、芸術などが救済してくれないとしたら、人は何に救いを求めたらいいのか。

●マルケスは、この途方もない話で何を語りたかったのか。

●人は奴隷とか虜になりたがっているのかもしれない。

●「空想ゆたかなメルキアデスの物語のとりこになった」

●また遠回りしようとしているのかもしれない。でも構わない。ホラー小説には私を真に解放してくれる力はないのだから。

●この小説には西暦の記述がない。原始から現代までの時の流れを描いているのだ。つまり、「百年」以上の時間を伝えようとしているのだ。

●マコンド、ようやく開けそめた新天地、20軒ほどの村から、この物語は始まっていることを忘れてはならない。そして、やがて跡形もなく地上から姿を消してしまう。

●現代小説が進化し形成してきた合理的な小説作法を、マルケスは根本的にくつがえしている。近代リアリズムの否定、現代文明へのアンチテーゼ。

●キーワードは時間。現代小説が得意とする時間の処理法を彼は排除している。だから、読みにくいのだが。

●人を変えるのは戦争であり、革命である。闘争、競争……。

●常識的な小説の文法から逸脱した書き方。

●リフレインを多様することで、物語に統一感を与え、イメージを定着させる。

●終わりのないルフランとは潮騒であり、時の流れ、つまり命の明滅である。彼はそれを残酷に容赦ないタッチで描いた。そこには感傷はなく幻想だけが生まれる。覚悟にも似た潔さが、読者に美なるものを垣間見させる。

●途方もない空想を抱きながら熱い血に愚直な血族たちのたどる道は、宿命的な悲劇にさらされている。

●「百年の孤独」を読んでいると、どんどん自分が孤独になっていることに気づいてしまう。

●容赦なさ、残酷、冷酷無惨、残忍、それらを少し減らし、幻想的なシーンと、人々の大らかさを増やした方がいいと思う。彼は残酷な話を書きたかったのだろう。

●人がばたばた死んでゆく物語は、この小説から流行し出したのではないか。とにかく人はキレイキレイな物語は好まなくなったのだ。

●人は深い哀しみとか傷みを胸に抱く時、幻想・幻視を見るという。それがマルケスの方法論の根底にあるのではないか。

●ストーリー・ラインの鮮明さ、滑らかさ、アップ・ダウンなど、効果的なストーリー・テリングを無視。寓話的エピソードぎゅう詰形式。満員電車のように、ぎしぎし挿話を詰め込んでいる。

●個々の語りの巧さは天才的だ。

●この小説が「ホット・ドッグのように売れた」理由がわからない。

●共同体が大きくなり、やがて死滅する過程を、その中に人間の赤裸々な欲望を盛りこみ、大胆不敵に描き切っている。

●作品はわかってしまったらお終いなのだ。だから、この小説はいつまでも楽しめるのである。

●とにかく筆力が物凄い。

●すべてが唐突に起きる。偶然の連続。

●「自分自身の開放のために戦う」

●一人ひとりの人間が持っているもの、力・光・風・気・オーラ、それらを呼び覚ましてくれる力が、この作品にはある。

●合理的ストーリー・テリングの否定。

●過剰な感情(愛・恐怖・哀しみ)⇒必ず幻覚を生む。

●極端な美は不安を生む。

●恐ろしく長い大人のための残酷童話だ。そこの世界は残虐性と幻想性との対比によって構成されている。

●「一本の指にふたつも指輪をはめて」

●キャラクターの作り方を盗む…何てことなできない。

●その深い孤独は余りにも苦渋に満ち満ちている。

●この小説は、地上には幸福な安息の場所はないことを告げているようだ。

●この小説はカタルシスとはは何かを教えてくれているようだ。。

●この小説によって、救われる人間が何人いるのだろうか。そもそも小説によって救われようと思うことが間違いなのだろうか。

●自分という畑を広く深く耕すことの契機となってくれればいい。

●すべては夢幻。

●この小説そのものが謎なのだ。

●大嘘、オオボラを大胆に平気で語ることで、途方もない話を信じ込ませてしまう。

●マルケスが戦っているのはキリスト教、つまり一神教の神ではない。それはむしろ近代文明だ。科学や文明は人間を幸せにしなかった。医学の進歩は疫病による大量死をなくしたが、現代社会は次々と新種の病気を生み出している。まるでいたちごっこだ。原始共同体の時代から近代社会ができるまでを「百年の孤独」は描いている。
現代は宗教を喪失している。必要なのは新たな宗教を生み出すことではない。洪水のように押し寄せてくる情報を取捨選択し、原始的な生命感を取り戻す生き方を獲得するかが問題なのだ。ただ彼もやはり結論は述べていない。

●この小説がホットドッグのように売れた理由はたぶん、ユーモア、セックス、途方もないスケールの大きさ、冷酷無惨な描写、豊かな語り口、幻想性、魔術的リアリズムなどなど、挙げていったら切りがない。

[用語集] 長い歳月が流れて銃殺隊の前に立つはめになったとき、
あの遠い日の午後、
魔法の鉄の棒、自然の知恵をはるかに超え、奇跡や魔法すら遠く及ばない、とてつもない空想力、呪文、銅のロケット