風花未来の今日の詩は「雨の中に消えた青年」です。

 

雨の中に消えた青年

 

その青年は

雨の中に消えた行った

 

あの日は

朝から どしゃ降りだった

深い霧で

山も渓谷も

何も見えなかった

 

数メートル先しか見えない

細い山道を

青年は黙々と歩き続けた

 

聴こえてくるのは

雨音と渓流の響きだけだった

 

山と川だけを愛した

無口な青年は

あのまま

どうなったのだろうか

 

同じように

雨に煙る山道に

今 わたしは立っている

 

わたし以外 誰もいない

 

雨の中に消えた

青年の後ろ姿が

鮮明な夢のように

よみがえった

 

そして その姿は

次第に澄んで

澄みきって

やがて

透き通って

消えてしまった

 

そして わたしは

 

ようやくだが

青年の後を追いかけて

わたしも もうすぐ雨の中に

消えてゆくだろう