終戦記念日(終戦の日)が過ぎてしまいましたが、今日は、広島を舞台にした反戦映画をご紹介します。

 

その夜は忘れない」。

 

おそらくは、この映画を見たことがある人は少ないのではないでしょうか。私も今回が初めての鑑賞でした。

 

監督は吉村公三郎。主演は若尾文子田宮二郎です。

 

この「その夜は忘れない」は、1962年(昭和37年)に制作されました。太平洋戦争(大東亜戦争)が終わって17年目に作られたことになります。

 

物語は戦後17年目の広島のまちを、記者が取材に訪れるところからはじまるのですが……

ジャンルでいうならば、恋愛映画だと言えます。同じ原爆をテーマにした恋愛映画ですと、吉永小百合渡哲也が共演した「愛と死の記録」があります。監督は蔵原惟繕(くらはらこれよし)が担当。

 

被爆をテーマにした恋愛映画では北大路欣也星由里子が共演した千曲川絶唱」が有名です。監督は豊田四郎。

 

「愛と死の記録」「千曲川絶唱」と比べると、「その夜は忘れない」は、恋愛よりも、原爆の傷跡の方に重点がおかれており、反戦色が強いので社会派映画だと言えます。

 

吉村公三郎監督と聞いて、すぐに作品名が浮かぶ方はおられるでしょうか。「安城家の舞踏会」と「越前竹人形」は知られていますね。

 

では、「その夜は忘れない」は、映画作品として、どのように評価したら良いのでしょうか。

若尾文子と田宮二郎の共演としうことで、二人の演技だけを見て、満足する人もいるでしょう。カメラアングルも魅力があるし、映像に品格もあります。

 

私は高校時代の修学旅行で広島に行きました。原爆記念館も高校生の時に見ることができました。惨たらしい写真の数々は今も忘れられません。

 

そうした写真も、この映画には出てくるのですね。出さなくても映画は撮れたでしょうけれど、あえて被爆者たちの写真を出したところに、反戦の主張を前に出したいという監督の意図がうかがわれました。

 

若尾文子と田宮二郎は、本当に良いですよ。でも、見終ったあと、何とも知れない後味の悪さがありました。同じ原爆をテーマにした「原爆の子」は繰り返し鑑賞できますし、後味の悪さはほとんどないのです。

 

「原爆の子」レビューはこちらに

 

「その夜は忘れない」の表現は直接的で、希望が見えません。一方、「原爆の子」には戦後の豊かな自然が描かれ、人間たちの力強い息吹が感じられます。そこには希望が見えるのですね。

 

その違いでしょうか、今回見た「その夜は忘れない」を、繰り返し見たいとは思わないのです。辛くて、二度とは見られそうにありません。

 

では、単なる凡作かといえば、決してそうではないでしょう。日本人として生まれたのならば、当然のように一度は見ておくべき映画だと断言できます。いえ、見ておかなければならないと言うべきかもしれません。