立原道造の「草に寝て……」という詩をご紹介します。
草に寝て……
六月の或る日曜日に
それは 花にへりどられた 高原の
林のなかの草地であつた 小鳥らの
たのしい唄をくりかへす 美しい声が
まどろんだ耳のそばに きこえてゐた
私たちは 山のあちらに
青く 光つてゐる空を
淡く ながれてゆく雲を
ながめてゐた 言葉すくなく
──しあはせは どこにある?
山のあちらの あの青い空に そして
その下の ちひさな 見知らない村に
私たちの 心は あたたかだつた
山は 優しく 陽にてらされてゐた
希望と夢と 小鳥と花と 私たちの友だちだつた
立原道造の詩には珍しく、現実の気配、匂いのする作品だ。
それでも、基調は立原セレナーデと呼びたい、夢心地に誘う音楽からは逸脱してはいない。
立原道造が好んで使うワードが、ここに集結している。
日曜日、花、高原、林、小鳥、唄、山、空、雲、言葉、しあわせ、村、心、陽、希望、夢、友……
立原ワード、そのものが「詩」であることに気づく。